権藤花代

権藤花代（ごんどう はなよ）

権藤花代（1899年4月13日 - 1961年11月3日）は、日本の童謡詩人であり、唱歌「たなばたさま」の作詞者として知られています。旧姓は伊藤はなよで、結婚後はペンネームとして権藤はな子を使用していました。本名である「権藤はなよ」の名で広く知られています。

生涯

1899年、山梨県北巨摩郡穴山村（現在の韮崎市穴山町）に、父・伊藤友重、母・やよの次女として生まれました。実兄はアララギ派の歌人である伊藤生更で、短歌結社「美知思波」を創立しています。

1919年に山梨県師範学校（現在の山梨大学）を卒業後、母校である穴山尋常小学校に勤務しました。大正後期から昭和初期にかけての童謡運動の全盛期に、文学への強い思いから上京を決意します。上京後は出版社に勤務しながら、野口雨情と千葉省三に師事し、『金の星』『童話』などの児童雑誌に童謡詩や童話を発表しました。

1924年5月には、宮崎県延岡市出身の声楽家・権藤円立と結婚。野口雨情が媒酌人を務めた結婚式は、兄の住む甲府で行われました。結婚後、一年余りを夫の勤務地である大阪で過ごした後、再び上京し、武蔵野村（現在の武蔵野市）吉祥寺に居を構えました。当時、野口雨情も吉祥寺に住んでおり、また権藤円立と東京音楽学校時代からの親友であった作曲家の藤井清水も1926年に吉祥寺に転居したことで、三家族は親交を深めました。藤井清水の伴奏で権藤円立が歌い、野口雨情が講演をするという形式の演奏旅行は全国に及び、「楽浪園の三羽烏」と呼ばれていました。

花代は、1927年から1933年まで武蔵野村第一尋常小学校（現在の武蔵野市立第一小学校）に勤務しました。この間の1932年には、権藤はな子童謡集『雪こんこお馬』を上梓。この童謡集には、野口雨情が序文を寄せています。畑中圭一の著書『日本の童謡』によれば、この童謡集は女性による最初の童謡集であったとされています。

花代の作品は、童謡集に収録された作品だけでなく、それ以外の作品も童謡曲や歌曲として出版されています。彼女の詩は歌うことを前提に書かれているため、多くの作曲家によって楽譜化されています。藤井清水が作曲した花代作詞の童謡曲は19曲あり、出版されていない自筆楽譜は日本近代音楽館が所蔵しています。

昭和初期の東京では、社会運動とともに宗教運動も盛んでした。夫の権藤円立は寺院の出身であり、仏教聖歌の普及に力を注いでおり、花代も仏教童謡の作詞を多く手掛けました。1941年の教科書採用以前には、文部省宗教局内、仏教音楽協会発行の『仏教聖歌』に8曲の楽譜が残されています。

また、1935年からは、甲府に住む兄の伊藤生更が主宰する短歌雑誌『美知思波』に毎月短歌を投稿し、1955年までに詠んだ短歌は千首に及びます。当初は、東京支部を権藤宅に置き、歌会も自宅で開いていました。花代の短歌は、童謡詩と同じように望郷の歌が多く、歌評においては、同人の短歌に対して助言めいたことは一切言わず、良いところだけを挙げ共感を表していました。

彼女の代表作である「たなばたさま」は、1941年に「国民学校令」が制定され国定教科書が編纂される際、文部省が題材を指定して作詞を依頼した三作品の一つです。この歌は、下総皖一が作曲し、「うたのほん 下」（国民学校2年生用）に掲載されました。

権藤花代は、万事控え目で、謙虚で飾り気のない誠実な人柄であったと伝えられています。彼女は自身の業績について、関係者以外には語ることがありませんでした。

1961年に死去。享年62歳。夫・権藤円立の生まれ故郷である宮崎県延岡市の「光勝寺」に眠っています。

2013年には、権藤花代の故郷である山梨県韮崎市穴山町内に9基の童謡詩碑が建立され、2016年にはさらに1基増えて計10基の詩碑があります。

「たなばたさま」作詞の経緯

文部省唱歌「たなばたさま」は、太平洋戦争が始まった1941年に国民学校教科書「うたのほん下」に収録されました。戦後、1947年に文部省が発行した最後の教科書には作者が公表されており、権藤花代作詞の「はねつき」と「数え歌」は継続掲載となり作詞者が明記されました。しかし、「たなばたさま」は選考に漏れて採用されなかったため、作者が公表されることはありませんでした。

1950年には、二葉発行の教科書に「たなばたさま」が掲載されましたが、作者の記載は「詞　林柳波、曲　不明」となっていました。1953年、教育芸術社は、下総皖一と山田耕筰校閲の教科書を発行し、歌詞は国民学校初掲載の「ごしきのたんざく」に戻り、作者は「うた　ごんどうはなよ・きょく　しもふさかんいち」と記されました。

日本音楽著作権協会は、権藤花代と下総皖一の死亡後の1967年に「たなばたさま」の作詞者名を「権藤花代・林柳波」と連名で記載しましたが、この記載には資料的根拠がないとされています。

教科書採用作品

「たなばたさま」『うたのほん 下』1941年初掲載
「羽根つき」『うたのほん 下』1941年初掲載
「数え歌」（古謡）『初等科音楽 二』1942年初掲載
「ねんねんねむの木」『総合小学生の音楽4』（教育出版）1959年掲載

短歌

武蔵野の空の果てなる富士ヶ嶺の彼方のくには母在（いま）すくに
野茨は白く咲きたりふるさとの野路にも今を咲き匂ふらむ
汝が心まろきにすぐと母上がのたまひしこと思いつつをり（『美知思波』1950年2月号）
きき捨てにならぬ言葉をきき捨てて針運ぶ手のふるえとまらず（『美知思波』1954年8月号）
貧しくも吾には吾の信念あり三十余年ひとすぢなりき（『美知思波』1954年8月号）

雑誌掲載作品

童謡詩　「雉子が啼いた」　『金の星』1923年6月号
童話　「笛吹川」　『金の星』1924年1月号
童話　「キューピーさんのらくがき」　『童話』1924年1月号
童話　「かげろふの立つ頃」　『童話』1924年10月号
童謡詩　「窓」　『金の星』1925年5月号
童話　「大空高く」　『金の星』1928年3月号

童謡詩集

権藤はな子童謡集『雪こんこお馬』1932年

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