伊藤蘭嵎

伊藤蘭嵎（いとう らんぐう）

伊藤蘭嵎は、元禄7年（1694年）に京都で生まれ、安永7年（1778年）に没した江戸時代中期の儒学者です。本名を長堅、字を才蔵といい、蘭嵎の他に、啓斎、六有軒、柏亭、抱膝斎といった号も持っていました。没後には紹明先生という諡号が贈られています。

生涯

儒学者・伊藤仁斎の五男として生まれた蘭嵎は、主に兄たちから儒学を学びました。仁斎の息子たちは皆学問に秀でており、特に原蔵（東涯）、重蔵（梅宇）、正蔵（介亭）、平蔵（竹里）そして才蔵（蘭嵎）の五人は「伊藤の五蔵」と呼ばれ、その中でも長男の東涯と末弟の蘭嵎は特に名を知られていたため、「伊藤の首尾蔵」とも称されました。

享保16年（1731年）には紀伊藩に儒者として仕え、三十人扶持を与えられました。紀伊藩儒となった伊藤海嶠は彼の養子です。また、岩橋蓮渚、桜井舟山、井口蘭雪、宮崎筠圃、平秩東作など、多くの門人を育てました。

人となりと逸話

蘭嵎は博学で文章力に優れ、立ち居振る舞いも非常に端正であったと伝えられています。紀伊藩主に初めて謁見し、講義を行う際、蘭嵎は黙ったまま動こうとしませんでした。周囲の者が緊張しているのだろうと促しても、彼は応じません。しばらくして口を開き、「藩主が座布団に座っていては、聖人の書を講じることはできない」と述べました。これを聞いた藩主は慌てて座布団を片付けさせ、蘭嵎の講義を聞いたところ、その弁舌は明瞭で理路整然としており、居合わせた人々は皆「真の儒者である」と感嘆したと言われています。

また、蘭嵎は墨絵で蘭を描くことを好んでいましたが、60歳頃になると「道学先生」という言葉に感銘を受け、この遊びをやめました。書道にも優れていました。

まとめ

伊藤蘭嵎は、儒学者としての深い知識と誠実な人柄で、多くの人々に影響を与えた人物です。彼の学問に対する真摯な姿勢と、礼儀を重んじる態度は、後世に語り継がれるべき教訓と言えるでしょう。また、学問だけでなく、書や絵画にも才能を発揮した多才な人物でした。

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