平秩東作

平秩東作：多才な文人の波瀾万丈な生涯

平秩東作（へづつ とうさく、1726年4月29日 - 1789年4月3日）は、江戸時代後期を代表する文人である。戯作者、狂歌師、漢詩人として活躍した一方、煙草商、炭焼き、材木商など様々な事業を手がけ、その生涯は波乱に満ちたものだった。

東作は、内藤新宿の煙草商の家に生まれた。幼い頃から漢学や和学を学び、10歳で父を亡くすと、14歳で家業を継いだ。青年期には大田南畝と親交を結び、生涯にわたる交流を育んだ。平賀源内とも親交があり、伊藤蘭嵎を師と仰いだという説もある。

東作の才能は多岐に渡る。戯作では『駅舎三友』『当時阿多福仮面』などを著し、狂歌では1785年（天明5年）に自ら中心となって『百鬼夜狂』を刊行するなど、狂歌界でも重要な役割を果たした。さらに、漢詩にも秀でていたという。

事業家としての顔も持ち合わせていた。1773年（安永2年）から翌年にかけては伊豆の天城山で炭焼き事業を、1775年（安永4年）からは材木商を営んだ。また、1783年（天明3年）から翌年にかけては蝦夷地（北海道）に滞在し、アイヌの人々の風俗や蝦夷地の風土を調査。その経験を基に『東遊記』を著した。この蝦夷地での調査は、隠密行動であった可能性も指摘されている。

しかし、東作の生涯は順風満帆ではなかった。1786年（天明6年）には、横領罪で逃亡した勘定組頭を匿ったことが発覚し、処分を受けた。この事件をきっかけに、狂歌界との関係も疎遠になったとされる。

浄土真宗の秘教組織に潜入し、その一味を密告したという逸話も残る。この行為により、東作自身も厳しい詮議を受けたが、疑いは晴れ、褒美を受けたという。平賀源内が獄死した際、遺体の引き取り手がなく、公儀に目をつけられることを覚悟の上で、東作が引き取ったというエピソードも伝えられている。

東作の代表的な作品には、『駅舎三友』『当時阿多福仮面』『納太刀誉鑑』（紀上太郎との合作）、『二国連璧談』『東遊記』『狂歌師細見』『狂歌百鬼夜狂』『怪談老の杖』『莘野茗談』などがある。これらの作品は、東作の多様な才能と、その時代背景を反映した内容となっている。

近世文学研究者の井上隆明は、東作を「戯作的に生きた戯作者」と評した。その言葉は、東作の奔放で自由な生き様、そして数々の事業や事件に翻弄されながらも、創作活動を続けた生涯を的確に表していると言えるだろう。身長5尺に満たない小柄な体格も、その個性的な人物像を際立たせる要素の一つである。

平秩東作は、多様な才能を持ち、波乱に満ちた生涯を送った文人であった。その生涯と作品は、江戸時代後期の文化や社会を知る上で貴重な資料となっている。

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