伊藤仁斎

伊藤仁斎：孔孟の思想を現代に繋ぐ儒学者

伊藤仁斎は、江戸時代前期に活躍した、日本を代表する儒学者の一人です。1627年（寛永4年）、京都に生まれ、1705年（宝永2年）に没しました。幼名は源吉、後に源佐、源七とも呼ばれ、屋号は鶴屋七右衛門、号は仁斎、諡号は古学先生です。

朱子学からの脱却と「古義学」の確立

仁斎は、当初は朱子学を学んでいましたが、次第に朱子学の経典解釈に疑問を抱くようになりました。朱子学は体系的な学問体系ではありましたが、禅や老荘思想といった儒教以外の思想の影響を受け、経典の解釈に偏りがあると考えたのです。

そこで仁斎は、朱子学の枠を超え、孔子と孟子の原典に直接立ち返る「古義学（古学）」を提唱しました。これは、当時の儒学界において革新的な試みでした。仁斎は、客観的な理屈よりも、人間味あふれる心情を重視し、「情」を積極的に評価しました。四端の心や性善説を説き、より人間的で実践的な儒学を追求したのです。

主要著作と学問方法

仁斎は、『論語』を「最上至極宇宙第一の書」と位置づけ、その解釈に生涯を捧げました。主な著作には、『論語古義』『孟子古義』『語孟字義』『中庸発揮』『童子問』『古学先生文集』などがあります。しかし、生前は著作の公刊にはこだわらず、講義や著述の推敲に多くの時間を費やしました。

仁斎の学問方法は、当時の主流であった朱子学的な経典解釈を排し、テキストを直接的に検討するというものでした。これは、いわば実証主義的なアプローチと言えるでしょう。この手法は、同時代の儒学研究においても注目すべき点であり、仁斎の学問の独自性を際立たせています。

家庭と弟子たち

40歳を過ぎて結婚し、1男2女をもうけました。52歳で妻を亡くした後、再婚し、さらに4男1女をもうけました。68歳で生まれた末子の蘭嵎（らんぐう）を含め、5人の男子は皆、優れた儒学者となり、「伊藤の五蔵」と呼ばれました。仁斎の学問は、彼の子孫たちを通じて、後の儒学界に大きな影響を与えました。

後世への影響

仁斎の思想は、現代においても高く評価されています。彼の「古義学」は、儒学研究に新しい視点を提供しただけでなく、倫理や人間性の探求といった普遍的なテーマを提示しています。特に、『童子問』は、現代語訳も多数出版され、多くの人々に読まれています。仁斎の思想は、現代社会における人間関係や生き方について考える上で、重要な示唆を与えてくれるでしょう。

まとめ

伊藤仁斎は、朱子学の枠を超え、「古義学」という独自の学問体系を確立した、偉大な儒学者でした。彼の思想は、経典の解釈にとどまらず、人間性や倫理といった普遍的なテーマを深く探求しており、現代社会においても重要な意味を持っています。彼の著作は、現代の私たちにとっても、人生の指針となる多くの示唆を与えてくれるでしょう。仁斎の生涯と業績を学ぶことで、日本の儒学の歴史と、その現代における意義を改めて考えることができます。

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