低電離中心核輝線領域

低電離中心核輝線領域（LINER）

低電離中心核輝線領域、略称LINER（ライナー）は、その中心領域から放たれる特定のスペクトル線の特徴に基づいて分類される銀河核の一種です。この名称は英語の「low-ionization nuclear emission-line region」に由来します。

LINERのスペクトルは、酸素、窒素、硫黄などの比較的弱くイオン化された原子からの輝線が目立つことを特徴とします。例えば、O（酸素）、O+（1価の酸素イオン）、N+（1価の窒素イオン）、S+（1価の硫黄イオン）などの輝線が観測されます。一方で、O++（2価の酸素イオン）やN++（2価の窒素イオン）、He+（1価のヘリウムイオン）といった強くイオン化された原子からの輝線は、LINERでは比較的弱い傾向にあります。このタイプの銀河核は、1980年に天文学者ティモシー・ヘックマンによって行われた銀河核の分光観測に関する一連の研究の中で、初めて識別され報告されました。

概要

LINER核を持つ銀河は、一般的にLINER銀河と呼ばれます。これらは宇宙において非常に普遍的に見られる銀河核の一種であり、例えば、地球から約20メガパーセク（約6500万光年）から40メガパーセク（約1億3000万光年）程度の比較的近い距離にある銀河のうち、約3分の1がLINER銀河であると推定されています。

LINER銀河の形態は多様ですが、その約75%は楕円銀河、レンズ状銀河（S0）、または大きなバルジを持ち、渦状腕がやや損傷しているようなS0/aからSab型の渦巻銀河に見られます。これに対し、不規則銀河でLINER核が見られることは稀です。また、LINER核は、2つの銀河の衝突や合体によって形成され、大量の赤外線放射を示す高光度赤外線銀河（LIRG）にも頻繁に見られます。LIRGの約4分の1がLINER核を持つことが知られています。

エネルギー源とイオン化のメカニズムに関する議論

LINERの物理的な性質、特に中心領域のガスを輝かせるエネルギー源と、イオン化がどのように起きているのかというメカニズムについては、現在も天文学者の間で活発な議論が行われています。

主要な議論の一つは、イオン化エネルギーの起源です。考えられる候補としては、銀河中心に存在する超大質量ブラックホールからの活動銀河核（AGN）活動によって供給されるという説や、中心領域の活発な星形成領域に存在する高温の若い星々から供給されるという説があります。もう一つの重要な議論点は、イオン化のメカニズムです。ガス内で衝撃波が伝播することによってガスがイオン化されるという説や、中心からの強い紫外線（UV）放射による光電離が原因であるという説が提唱されています。

これらの議論は、LINERが幅広い光度や多様な形態を持つ銀河に見られるという事実によって、さらに複雑になっています。加えて、LINERのエネルギー源に関する議論は、AGNや星形成がLIRGで見られるような極めて明るい赤外線放射を生成できるかという問題とも密接に関連しています。エネルギー源もイオン化のメカニズムも完全には特定されていませんが、観測からは、多くのLINERがAGN活動と関連している可能性が高いことが示唆されています。

星形成との関連

LINER活動と銀河における星形成との関係性を明らかにするための研究が多く行われています。もし両者に強い関連があれば、LINERのエネルギー源が星形成領域に存在する高温の星々である可能性が高まります。逆に、LINERを持つ銀河で星形成が活発でない場合、星形成がLINERの主要なエネルギー源である可能性は低くなります。

高光度赤外線銀河（LIRG）におけるLINERと星形成
特にLIRG内のLINERに関する近年の観測研究（例：スピッツァー宇宙望遠鏡を用いた中赤外線観測）は、星形成活動との明確な関連性を示唆する結果を得ています。LIRGのLINERの中赤外線スペクトルが、スターバースト銀河（活発な星形成が起きている銀河）のスペクトルと類似していることが分かり、星形成がこれらのLINERのエネルギー源として重要である可能性が示唆されました。しかし、AGNの中赤外線スペクトルも類似性を示すことがあるため、星形成だけが唯一のエネルギー源ではない可能性も指摘されています。

通常の銀河におけるLINERと星形成
一方、高光度ではない（通常の）近傍銀河に見られるLINERでは、状況が異なります。近赤外線分光観測などから、星形成が主要なエネルギー源であると考えられるケースは限られています。多くの通常のLINER銀河では、中心領域の星形成活動は低い傾向があり、古い恒星の寄与が大きいことが示されています。スピッツァー宇宙望遠鏡による中赤外線スペクトルも、星形成活動を示すスペクトルとは異なります。これらの観測結果は、多くの通常のLINERにおいては、例外はあるものの、星形成がエネルギー源である可能性は低いということを示唆しています。

総合すると、高光度赤外線銀河のLINERでは星形成が重要な役割を果たしている可能性が高い一方で、大多数を占める通常のLINER銀河のエネルギー源は、星形成ではなくAGN活動に関連している可能性が高いと考えられています。

著名なLINER銀河の例

M94 (NGC 3034)
NGC 5005
NGC 5195 (M51の伴銀河)
ソンブレロ銀河 (M104)

関連項目

* セイファート銀河 - 活動銀河核を含む別の種類の銀河

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