住宅開発庁

シンガポールの住宅開発庁（HDB）について

シンガポール住宅開発庁（Housing & Development Board：HDB）は、公共住宅の供給を担うシンガポールの法定機関です。国家開発省の管轄下にあり、1960年代の住宅不足解消に大きく貢献しました。特に、スラム街やスコッターを一掃し、低価格のマンションを提供したことで知られています。現在では、シンガポール国民の約8割がHDB住宅に居住しています。

HDB住宅の特徴

HDBが供給する住宅は、「HDBフラット」「HDB住宅」、または単に「HDB」と呼ばれています。これらの住宅はシンガポールの象徴とされており、2013年以降の10セント硬貨のデザインにも採用されています。また、シンガポールドルの硬貨や紙幣には、HDB住宅をモチーフにしたものが数多く発行されています。

歴史

1959年の自治権獲得直後、シンガポールは深刻な住宅不足に直面していました。第二次世界大戦による建設費の低下と損害は、戦前からあった住宅問題をさらに深刻化させました。1947年の報告書では、シンガポールには「文明社会に対する屈辱」とも言える最悪のスラム街が存在し、1軒当たりの人口密度は18.2人に達していたと記録されています。

1959年の選挙戦で、人民行動党（PAP）は住宅問題の早急な解決を公約し、当選後すぐに住宅問題に取り組みました。その結果、1960年には住宅開発法が制定され、シンガポール改良信託を再編し、HDBが設立されました。

リム・キムサン氏の指導の下、HDBは低コスト住宅の大量建設を最優先課題とし、五か年計画をスタートさせました。当初は低所得者向けの賃貸住宅が中心でしたが、1964年には持ち家制度が導入されました。これにより、国民はインフレから資産を守ることができ、経済的な安定を得ることができました。さらに、1968年からは中央積立基金を住宅購入の頭金に使えるようになりました。

1960年代、HDBは年間1万4000戸の住宅建設が必要だと試算していましたが、当時の民間部門では年間2500戸しか建設できず、しかも低所得者層向けとは言い難いものでした。そのため、HDBは最初の5年間で51,031戸の住宅を建設しました。国土が限られているため、高層高密度のマンションが選ばれました。

多様な取り組み

1989年には、人種統合政策（Ethnic Integration Policy：EIP）が導入されました。これにより、異なる民族が一つの建物や街区に混在し、社会階層化による社会的な対立を防ぐことを目指しました。EIPでは、各街区と隣接街区における民族比率の上限が定められています。

1990年代からは、既存の古い建物の更新に力を入れ、「Lift Upgrading Programme」などが実施されました。これにより、従来は数階飛ばしのエレベーターしかなかった建物に、全ての階に停止するエレベーターが設置されるなど、設備が改善されました。

2003年には、HDBの建築・開発部門が株式会社化され、HDB株式会社（HDB Corporation Pte. Ltd.）となりました。その後、HDB株式会社はサーバナ株式会社（Surbana Corporation Pte. Ltd.）に改称されています。

まとめ

HDBは、シンガポールの住宅問題解決に大きく貢献し、国民の生活を支える重要な役割を果たしています。住宅供給だけでなく、社会統合や居住環境の改善にも力を入れている点が特徴です。HDBの取り組みは、世界的に見ても成功例として注目されています。

[参考資料]

ジェトロ・シンガポール事務所、ジェトロ・サービス産業課. “シンガポールスタイル”.
自治体国際化協会 シンガポール事務所. “シンガポールの都市計画”.
* 丸谷浩明『都市整備先進国・シンガポール』アジア経済研究所、1995年.

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