佐々元十

佐々元十（ささ げんじゅう、本名・佐々木高成）は、1903年1月14日に広島県で生まれ、1959年7月7日に生涯を閉じました。彼は、東京帝国大学仏文科を中退後、共産主義運動に身を投じ、日本のプロレタリア映画運動の先駆者として活躍しました。

1920年代後半、日本にマルクス主義の思想が広まる中、佐々はプロレタリア劇場内に映画班を組織し、1927年のメーデーの様子を9.5mmのパテ・ベビーカメラで撮影しました。この作品『1927年メーデー』は、実質的に佐々一人で製作されたとされ、労働者の視点から階級闘争を描いた、映画運動の先駆けとなりました。当時、左翼的な視点から映画を論じる人はいましたが、労働者が自らの手で映画を作るという考えはまだありませんでした。佐々は、既存の撮影所のシステムから生まれる映画は大衆のものではないと主張し、労働者による映画製作の必要性を訴えました。

翌1928年には、野田醤油の労働争議を撮影し、この作品は工場労働者の間で大きな反響を呼びました。この反響が、日本プロレタリア映画同盟（プロキノ）結成の大きなきっかけになったと言われています。また、佐々は論文「玩具・武器―撮影機」を発表し、「たとえ玩具のような9.5mmの撮影機でも、使う者と使う方法によって強力な武器になる」と主張し、プロレタリア映画運動を積極的に呼びかけました。岩崎昶も、佐々の熱心な誘いによってこの運動に参加しました。

1929年初頭、佐々は岩崎昶、北川鉄夫らと共にプロキノを結成し、中心的な幹部として活動しました。同年には、ジョン・リードの著書『世界を震撼させた十日間』を翻訳しています。1932年には、プロキノの機関誌『プロキノ』の編集長を務めました。しかし、1931年の満州事変勃発後、政府による言論統制が強化され、また満州景気によって日本経済が不況を脱したこともあり、プロレタリア映画運動は停滞しました。1933年頃には警察の弾圧が厳しさを増し、プロキノも1934年頃には事実上壊滅しました。

その後、佐々は評論活動のほか、1938年から1943年まで『文化映画』編集長、『キネマ週報』編集責任者を務め、1943年からは理研科学映画などで活動を続けました。しかし、戦後は映画界から離れました。彼の主な作品には、『野田醤油争議』、『こども』、『進め戦旗』などがあります。

佐々元十は、その短い生涯の中で、日本のプロレタリア映画運動に大きな足跡を残しました。彼の「玩具のカメラが武器になる」という言葉は、現在でも、表現の自由と社会変革の可能性を象徴する言葉として語り継がれています。

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