佐々木正

佐々木正：日本の電子工学を牽引した先駆者

佐々木正（ささき ただし、1915年5月12日 - 2018年1月31日）は、日本の電子工学者であり、シャープ株式会社の元副社長です。工学博士の学位を持ち、「ロケット・ササキ」の異名で知られています。彼の生涯は、日本の電子工学、半導体、液晶技術の発展に大きく貢献しました。

生い立ちと学歴

島根県浜田市で生まれた佐々木は、小学生時代に台湾の小学校へ転校しました。その後、旧制台北高等学校を経て、1938年に京都帝国大学工学部電気工学科を卒業しました。台北高等学校時代には、マンゴーの品種改良に取り組み、アップルマンゴーの誕生にも関わったとされています。

川西機械製作所（後の富士通）時代

大学卒業後、川西機械製作所（後の富士通）に入社。第二次世界大戦中はレーダー技術習得のため、シベリア鉄道でドイツに渡り、対空レーダー技術を学びました。帰国時には潜水艦「Uボート」を利用するという危険な経験もしています。また、本土決戦に備えて「殺人光線」の開発を命じられたこともあったと言います。

シャープ株式会社での活躍

1964年、神戸工業（現：デンソーテン）から早川電機工業（現：シャープ）に転進。シャープでは、産業機器事業部長、専務、副社長を歴任し、同社顧問に就任しました。低電圧MOS・LSIを採用したハンディ型小型電卓や、ポケットに入る超小型電卓の開発を主導し、電算機、半導体、液晶業界で著名な研究者としての地位を確立しました。

国際的な評価と功績

佐々木は、IEEE（The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.）から日本人で5人目の「IEEE名誉会員」を授与されました。また、MOS・LSIがアポロ12号の着陸船に採用されたことにより、NASAから「アポロ功労賞」も贈られています。さらに、神戸工業時代に開発したマグネトロン技術を応用し、電子レンジの開発にも貢献しました。シャープが1961年に発売した国産初の量産型電子レンジ「R-10」の製品化にも深く関わっています。

幻の航空機事故と幸運

1985年8月12日、佐々木は大阪への帰省のため日本航空123便を予約していましたが、フィリップス本社の社長との会食が前倒しになったためキャンセル。結果として、この墜落事故を免れました。この事故は、佐々木の妻が伊丹空港で待っていた際、情報が入り大きな心配をかけましたが、佐々木が無事であることがわかり、安心したというエピソードも残っています。

多岐にわたる役職と後進育成

ソフトバンク株式会社相談役、（株）国際基盤材研究所代表取締役、郵政省電波技術審議会委員、新エネルギー財団・太陽光エネルギー委員会委員長、（財）国際メディア研究財団理事長、（財）未踏科学技術協会理事など、数多くの要職を歴任しました。また、私塾「正道塾」を通じて後進の育成にも尽力しました。

死去

2018年1月31日、肺炎のため102歳で亡くなりました。

「ロケット・ササキ」の由来

「ロケット・ササキ」の異名は、シャープの電卓「QT-8D」に使用されたMOS・LSIを製造していたノースアメリカン・ロックウェル社の経営陣が、佐々木に贈った漫画に由来します。その漫画には、ミニットマン・ロケットに跨がる佐々木の姿が描かれており、彼の名刺の裏にも描かれていました。この異名は、佐々木の技術革新の速さと、世界を飛び回る活躍ぶりを象徴するものでした。社内では、佐々木が去った後に仕事が山積する様子から、ロケット発射後の煙と気流に例えられていたそうです。

恩人としての佐々木正

佐々木は、孫正義とスティーブ・ジョブズという二人の起業家の恩人としても知られています。

孫正義との関係

孫正義がカリフォルニア大学バークレー校在学中に共同開発した「音声機能付き電子翻訳機」の試作機を売り込みに来た際、佐々木は開発研究費を拠出しました。また、ソフトバンク創業時には、運転資金の融資の保証人にもなっています。孫は佐々木を「大恩人」と呼び、彼の存在がなければ今日のソフトバンクもなかったと述べています。

スティーブ・ジョブズとの関係

アップルを追放されていたジョブズが来日した際、佐々木は彼に携帯型小型端末のヒントとなるようなアドバイスをしました。この時のアドバイスが、後のiPhoneの開発に繋がったとされています。

Intel 4004の開発への貢献

佐々木は、世界初のマイクロプロセッサであるIntel 4004の開発においても重要な役割を果たしました。彼は計算機用チップのアイデアを考案し、インテルに製造を要請しました。特に、チップセットの機能を4つに分解するというアイデアは、その開発の基礎となりました。

サムスンとの関係

1970年代に、サムスンの半導体開発を支援しました。日韓提携の機運があった中で、佐々木はサムスンの李健熙と日本の小林宏治の間を取り持ちました。シャープとサムスンは4ビットマイコンの製造技術で提携しましたが、後にサムスンは成長し、日本の半導体産業を脅かす存在となりました。サムスンとの関係で「国賊」と批判されたこともありますが、佐々木は「日本半導体産業の敗因は、自らが足を止めたことにある」と反論しました。また、サムスンとの特許訴訟問題も、李健熙の復帰後に和解しています。

まとめ

佐々木正は、日本の電子工学界において、革新的な技術開発を牽引した人物です。その功績は、電卓、半導体、液晶技術の発展に大きく寄与し、多くの起業家や技術者に影響を与えました。彼の生涯は、まさに日本の技術革新の歴史そのものであり、後世に語り継がれるべき偉大な先駆者です。

もう一度検索