佐世保大空襲

佐世保大空襲：未明の空襲と焼け野原となった街

1945年6月28日午後11時50分から翌29日午前2時頃にかけて、長崎県佐世保市はアメリカ軍による激しい空襲を受けました。梅雨の雨の中、141機のB-29爆撃機から投下された焼夷弾は、推定1200トンにも及び、佐世保市街地を焦土と変えました。この佐世保大空襲は、多くの犠牲者と甚大な被害をもたらした、第二次世界大戦末期の悲劇です。

空襲前の兆候と不意打ち

3月と4月、5月にはすでにアメリカ軍の偵察機や爆撃機が佐世保を訪れ、佐世保海軍工廠などに被害を与えていました。しかし、6月29日の空襲は、雨が降る梅雨の夜に、市民の警戒心が緩んだ深夜に開始されました。警戒警報さえ発せられないまま、多くの市民は不意を突かれ、逃げ場を失いました。

市街地の壊滅と市民の抵抗

宮地町付近を中心とした市街地は、降り注ぐ焼夷弾により瞬く間に火の海と化しました。弓張岳や但馬岳など市内各所に設置された高射砲による反撃もありましたが、圧倒的な数の敵機の前に無力でした。雨は、文字通り「火の雨」と化し、佐世保市は壊滅的な被害を受けました。

戦略と妨害電波

アメリカ軍は、門司と佐世保に地対空レーダーが配備されていることを事前に把握していました。そのため、電波妨害を行うための特別仕様のB-29爆撃機を初めて投入し、空襲の時間帯に門司と佐世保の上空を飛行させました。

空襲後の生活と降伏の知らせ

空襲後も、アメリカ軍機の飛来による空襲警報は続き、工場の作業効率は低下しました。中には、空襲警報に慣れてしまい、高射砲の音だけが避難の合図という市民もいました。7月31日には、日本の降伏が時間の問題であることを示すアメリカ軍のビラが散布されましたが、市民の反応は複雑でした。表面上は一笑に付すものの、その裏には降伏を暗に受け入れている現実がありました。

佐世保鎮守府と海軍工廠

興味深いことに、佐世保鎮守府などの軍事施設は、空襲による被害を免れました。焼夷弾は、市街地中心部を標的にしたことが分かります。佐世保海軍工廠も、小規模な被害にとどまりました。終戦直後、アメリカ軍関係者は、市街地の破壊は長崎よりも佐世保の方が酷かったと証言しています。

慰霊と追悼

佐世保市では、毎年6月29日を「佐世保空襲の日」として、サイレンを鳴らし、犠牲者を追悼する式典が行われています。また、鎮魂慰霊平和祈願之塔や佐世保空襲資料館、追憶の塔などの慰霊施設が建立され、空襲の悲惨さと平和への願いが伝えられています。2024年には佐世保空襲犠牲者遺族会が解散しましたが、後世への継承は、資料館や関係団体によって続けられています。

被害状況と記録

空襲による佐世保市の被害は甚大でした。罹災面積は約178万平方キロメートル、罹災戸数は12037戸(全戸数の35%)、罹災者数は60734人(全人口の27%)、死者数は1242人に上ります。市役所、公会堂、警察署、郵便局など多くの公共施設や民間建造物が破壊されました。一方、佐世保駅や三浦町教会などは奇跡的に被害を免れました。

ジョー・オダネルによる戦後の写真や、アメリカ軍が作成した空襲被害を示す地図なども、貴重な記録として残っています。昭和館デジタルアーカイブには、空襲後の佐世保市街を捉えたカラー動画も公開されています。これらの記録は、佐世保大空襲の記憶を未来へ繋いでいく上で重要な役割を果たしています。

資料

佐世保空襲を語り継ぐ会　『火の雨 佐世保空襲の記録』
飯田四郎　『占領軍が写した終戦直後の佐世保』
ジョー・オダネル、ジェニファー・オルドリッチ 著『トランクの中の日本　米従軍カメラマンの非公式記録』
その他、多数の文献や資料、ウェブサイトなど

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