佐伯かよの

佐伯かよの - 多彩な感性で描く物語

佐伯 かよの（さえき かよの、本名：新谷 佳代乃）は、1952年3月30日に山口県萩市に生まれ、2021年8月29日に惜しまれつつこの世を去った日本の女性漫画家である。山口県立萩高等学校を卒業後、漫画家としての道を歩み始めた彼女は、少女漫画からレディースコミック、さらにはSFやホラーといった多様なジャンルで独自の筆致を振るった。夫は、『エリア88』などで知られる漫画家の新谷かおるであり、二人の間には女優の新谷摩乃がいる。

経歴と歩み

佐伯かよののキャリアは、1972年に集英社の漫画雑誌『りぼん』の漫画賞で佳作に入選したことから始まった。同年、『りぼん春の増刊号』に掲載された短編「世界一幸福な男の話」でプロデビューを果たす。翌1973年には、同じく『りぼん』で活躍し、後に漫画界を牽引する存在となる新谷かおると結ばれる。公私ともにパートナーとなった新谷氏との関係は、その後の創作活動にも影響を与えることになる。

1980年代に入ると、佐伯氏の活動の幅はさらに広がる。1980年には小学館の『少女コミック』にて、テニスに打ち込む少女を描いた「スマッシュ!メグ」の連載を開始。続いて1983年からは『プチセブン』で「口紅コンバット」を、1984年からは『プチコミック』で「燁姫（あきひ）」を連載。これらの作品は大きな人気を博し、佐伯かよの名は広く知られるようになった。「口紅コンバット」と「燁姫」のヒットは、彼女の独特なキャラクター造形と、読者を引き込むストーリーテリングが高く評価された証である。

その後も精力的な創作活動を続け、特に1986年から連載された「緋の稜線」は、その代表作の一つとなる。この作品は高い評価を受け、1994年には第23回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞するという栄誉に輝いた。

漫画家として長年にわたり第一線で活躍したが、2021年8月29日、肺癌のため69歳で逝去した。その訃報は、同年9月20日に夫である新谷かおる氏が自身の公式サイトを通じて公表したことで、多くのファンや関係者に悼まれた。

多様なジャンルに挑んだ作風

佐伯かよのの作風は、その活動時期や掲載誌によって変化し、非常に幅広いことが特徴である。デビュー初期に作品を発表していた『りぼん』や、SFアンソロジー誌『SFマンガ競作大全集』では、SFやサイコホラーといった非現実的でスリリングな要素の強い作品を多く手掛けた。一方で、「スマッシュ!メグ」のようなスポーツ漫画や、読者を和ませるラブコメディーも描くなど、特定のジャンルに留まらない多才さを見せた。

後年には、レディースコミック誌などで、女性の生き方や美しさをテーマにした作品を多く発表するようになる。これらの作品では、性を物語の重要な要素として扱いながらも、単なる猥雑さに陥ることなく、文学的とも評される繊細な筆致で描いた。時に物語の筋が突飛な展開を見せることもあったが、歴史的な出来事や、作品が描かれた当時の流行を物語の中に巧みに取り入れることで、読者を飽きさせない独自の魅力を持つ世界観を創り出した。

漫画連載は、雑誌の休刊や自身の体調不良、育児といった様々な事情により、中断や掲載誌の変更を余儀なくされることもあった。中には「星恋華」のように、連載開始から完結まで足掛け20年にも及んだ大長編も存在する（単行本全12巻、後に文庫版全6巻で再版）。その一方で、「Poison-プァゾン-」や、宮尾登美子原作をコミカライズした「藏」のように、残念ながら未完に終わった作品も存在する。

新谷かおるとの協奏

佐伯かよのは、夫である漫画家・新谷かおるとの間に深い絆で結ばれており、仕事においても互いを支え合った。夫婦で互いの作品制作に協力することは珍しくなく、佐伯氏が新谷氏の作品に登場する特定のキャラクターを描いたり、新谷氏が佐伯氏の作品に登場するメカニックの緻密な描写を担当したりすることもあった。これは、それぞれの得意分野を生かしたクリエイター夫婦ならではの興味深い共同作業と言える。

また、自身の公式サイトを運営する傍ら、夫である新谷かおる氏の公式サイト「八十八夜」の管理も手掛けていた。これは、創作活動以外の面でも夫をサポートする、良きパートナーであったことを示している。

2007年から2017年にかけては、幻冬舎が運営するウェブコミック誌『GENZO』（後に『コミックバーズ』へ移籍）にて、新谷かおる氏が原作、佐伯かよのが作画を担当する夫婦合作「Quo Vadis（クオ・ヴァディス）」を連載した。これは、夫婦それぞれの才能を合わせた探偵ミステリー作品であり、読者から好評を博した。

さらに、ハーレクイン社が出版するロマンス小説を漫画化する仕事も手掛けるなど、活動の幅は多岐にわたった。漫画家・島本和彦の自伝的漫画『アオイホノオ』にも、新谷かおると共に当時の大阪芸術大学周辺の漫画家コミュニティの一員として登場しており、その存在感や人柄の一端が描かれている。

佐伯かよのは、多才な筆致と独自の感性で、多くの読者に愛される物語を生み出した。彼女の作品は、没後もなお、多くの人々に読み継がれている。

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