佐竹義直

佐竹義直：波乱に満ちた生涯

佐竹義直（さたけよしなお）は、江戸時代前期に佐竹氏の一族に生まれた人物です。佐竹北家の7代目当主となり、後に宗家である秋田藩初代藩主・佐竹義宣の世子となりますが、廃嫡され出家するという数奇な運命を辿りました。出家後は芳揚軒阿證（ほうようけんあしょう）、通称を寂尓（じゃくに）と名乗りました。

生い立ち

慶長17年（1612年）、佐竹義重の五男として、父の死後に誕生しました。幼名は申若丸（さるわかまる）と言います。異母兄姉には、佐竹義宣、蘆名義勝、岩城貞隆、多賀谷宣家などがおり、彼らはすべて義重の正室の子です。申若丸の母は細谷氏という女性でした。

母が懐妊中、病床にあった父・義重は、子が生まれるまで自分は生きられないと考え、家中の揉め事の種になることを恐れて、生まれた子を殺すように家臣に命じました。しかし、家臣は苦悩の末、佐竹義宣にこのことを報告。義宣は生まれた子を育てるように命じました。この逸話は『国典類抄』に記されています。

申若丸の母である細谷氏については、佐竹氏の家臣の娘という説が一般的ですが、元禄期の細谷氏の系図に不自然な記述があることから、身分的な事情で細谷氏の養女とされたという説も存在します。

佐竹北家相続

慶長19年（1614年）、佐竹氏の有力な分家である佐竹北家の当主が急死したため、3歳の申若丸が養子となり北家を継ぎました。この時期については、当主の生前、死後すぐ、また、正室が再婚した後の元和4年（1618年）など、諸説あります。

久保田藩世嗣から廃嫡へ

元和7年（1621年）、申若丸は元服して彦次郎義直と名乗り、将軍徳川秀忠に義宣の嫡子として認められました。義宣が義直を養子にした背景には、当時52歳であった義宣に実子がなかったこと、そして後継者がいないことで改易されることを恐れたためです。また、近親で他家の養子になっていないのが義直だけだったことも要因と考えられています。

しかし、義直は義宣にとって頼りない存在だったようです。家臣の相続問題で義直が下した判断を義宣が覆したり、教育係として付けられた人物が病気を理由に辞任したりする出来事がありました。義直が仏像の彫刻や仏書に傾倒し、教育係の諫言を聞き入れなかったことが原因とも言われています。

寛永3年（1626年）、義直は廃嫡されます。その理由は、義直が猿楽見物の際に居眠りをし、それを隣にいた伊達政宗に指摘されたという説が有力ですが、同時代の史料には明確な記述はありません。義直は廃嫡後、出家することになります。義宣は家老に宛てた書状で、義直の性格を「ぼんやりしている」と評し、見限ったことを伝えています。

廃嫡の決定は迅速に進められ、義直はすぐに秋田へ送られ、寺に入りました。その後、義宣の嫡子には、弟の岩城貞隆の子である岩城吉隆が選ばれました。

出家後の生活

出家後の義直は、寛永5年（1628年）に高野山へ行くことを許され、寛永15年（1638年）に正式に出家し、芳揚軒阿證と名乗りました。その後、仁和寺の覚深に師事し、尊寿院号と社地を与えられ、尊寿院を再興しました。佐竹家からも資金援助を受け、住職として寺を運営しました。

明暦2年（1656年）、45歳で亡くなりました。正室や子供はいませんでした。没後、法印号、上人号が追贈されました。尊寿院はその後も佐竹家から度々寄進を受け、佐竹家当主が京に滞在する際の宿所としても利用されました。

別名について

義直の諱については、「佐竹義継」と記した史料も存在します。同時代の史料では「義直」と記されていることが多く、混乱が見られます。この理由については、同名の人物との混同を避けるために後世に名付けられたという説や、廃嫡後の短期間のみ実際に名乗っていたという説などがあります。幕府の公式系譜集には「義直」とあり、少なくとも江戸時代後期には「義直」が正式な名と認識されていたことが分かります。

このように、佐竹義直は、波乱に満ちた生涯を送った人物でした。幼少期から数奇な運命に翻弄されながらも、最後は仏道に帰依し、静かな晩年を送りました。

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