佐賀県議会事件

佐賀県議会事件

佐賀県議会事件は、地方議会の議事進行における議員の行為が刑事事件となり、地方議会の自治権の範囲が争われた重要な判例です。この事件は、地方議会の自律性と、裁判所の司法審査権の関係について、重要な示唆を与えています。

事件の概要

1954年9月、佐賀県議会において、県の財政再建策を巡る審議が行われていました。左派社会党の県議である高橋義男は、審議中に保守系議員から審議打ち切りと一括採決の動議が提出されたことに反発。高橋を含む革新系県議5名と労組員2名が、議事進行を妨害したとして起訴されました。

彼らの行為は、以下の3点に集約されます。

1. 議長席での暴行: 議長のマイクを奪ったり、机を叩いたりするなどの行為（公務執行妨害罪）
2. 議長の監禁: 議長を貴賓室に閉じ込め、議決の無効とやり直しを要求（監禁罪、職務強要罪）
3. 保守系県議の監禁: 議会最終日に、保守系県議を控室に閉じ込め、議会の流会を図る（監禁罪）

裁判の経過

佐賀地裁は1961年、高橋と宮崎茂の2県議に懲役4ヶ月執行猶予1年、今村益雄ら3県議に懲役3ヶ月執行猶予1年の判決を下しました。労組員2名は無罪となりました。しかし、検察と弁護側の双方がこの判決を不服として控訴しました。

1963年の控訴審では、県議5名に懲役4ヶ月執行猶予1年、労組員2名に懲役3ヶ月執行猶予1年の判決が下されました。弁護側は最高裁へ上告。

1967年、最高裁は上告を棄却し、7名全員の有罪が確定しました。最高裁は、国会には広い自律権が認められているものの、日本国憲法第51条の発言免責特権は地方議会には適用されないと判断。地方議会の自治権が認められる範囲内の行為についても、裁判所の司法審査権が及ぶとの判断を示しました。

判決の影響

佐賀県議会事件の判決は、地方議会の自律権と司法審査権の関係について、重要な判例としての地位を確立しました。この判例は、地方議会の議事運営における議員の行動に対する一定の制約を示すとともに、地方自治のあり方について議論を深める契機となりました。

また、この事件は、地方議会における少数派の意見表明の自由と、多数決原理に基づく議事進行の円滑性という、二つの重要な価値の衝突を示す事例としても捉えられています。

参考文献

憲法判例研究会『判例プラクティス憲法　増補版』信山社、2014年

関連項目

議事妨害

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