保寿院

保寿院（ほうじゅいん）

保寿院は、慶長2年（1597年）に生まれ、慶安2年11月24日（1649年12月27日）に亡くなった、江戸時代前期の女性です。肥後国熊本藩の初代藩主となった細川忠利（ほそかわ ただとし）の正室（せいしつ）として知られています。生前の諱（いみな）は千代姫（ちよひめ）といい、保寿院という名は、彼女が没した後に贈られた院号です。

彼女は、徳川幕府に仕えた譜代大名、小笠原秀政（おがさわら ひでまさ）の次女として誕生しました。母は登久姫（とくひめ）といい、徳川家康の嫡男であった松平信康（まつだいら のぶやす）の娘にあたります。したがって、保寿院は徳川家康の孫にあたる血筋であり、母方の伯母にあたる登久姫の子であることから、第2代将軍徳川秀忠（とくがわ ひでただ）にとっては従姉妹にあたる関係でした。このように、徳川将軍家と近しい血縁を有していたことは、彼女の人生における重要な要素となります。

慶長13年（1608年）、保寿院（千代姫）は数え年で12歳または13歳の時、徳川秀忠の養女となることが定められました。これは、当時の幕府が有力な外様大名家と姻戚関係を結び、体制の安定を図るための重要な施策の一つでした。そして、この将軍家の養女となった保寿院の縁組相手として選ばれたのが、豊前国小倉藩主であった細川忠興（ほそかわ ただおき）の嫡男、細川忠利でした。忠利は、父から家督を継いだ後、小倉藩主から加藤家改易後の肥後熊本藩54万石の大名へと転じ、熊本藩細川家の祖となる人物です。

翌慶長14年（1609年）4月24日、保寿院は豊前国の中津城（なかつじょう）へ輿入れ（こし入れ）し、細川忠利の正室となりました。中津城は、細川家が当時治めていた小倉藩の本拠地です。保寿院は細川家の正室として、夫忠利の藩主としての道のりを支えました。元和5年（1619年）には、細川忠利との間に長男である細川光尚（ほそかわ みつなお）を出産しました。嫡男の誕生は、大名家にとって家督を次代に継承するための最も重要な出来事であり、正室としての彼女の役割の大きさを物語っています。光尚は後に父忠利の跡を継ぎ、熊本藩の第2代藩主となります。

細川忠利は、正保2年（1645年）に亡くなりましたが、保寿院はその後も存命し、細川家を見守りました。そして、慶安2年（1649年）、江戸の細川家屋敷にて逝去しました。享年は53歳でした。彼女の遺骸は、肥後国熊本にある妙解寺（みょうかいじ）に葬られました。妙解寺は、細川忠利の死後、彼の菩提を弔うために建立された細川家の菩提寺であり、細川家累代の墓所が置かれている重要な寺院です。正室として夫と同じ菩提寺に葬られたことは、細川家における保寿院の地位の高さを象徴しています。

保寿院の生涯は、徳川将軍家と細川家という有力大名家を結ぶ重要な懸け橋としての側面を持ち、大名家の正室として家系の存続と安定に貢献したことを示しています。将軍家の養女という格式は、細川家の幕府内での地位向上にも寄与したと考えられます。

なお、保寿院に関する記述は、『幕府祚胤伝』（『徳川諸家系譜』第2巻所収）や『寛政重修諸家譜』といった、江戸時代に編纂された信頼性の高い系譜・人物事典に見られます。

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