修道院長聖アントニウス (コレッジョ)

『修道院長聖アントニウス』は、ルネサンス期のイタリア画家コレッジョが、1517年から1518年頃に制作した油彩作品です。この絵画は、キリスト教の聖人である聖アントニウスを主題としており、元々はナポリのジロラミーニ教会に所蔵されていましたが、現在はカポディモンテ美術館のコレクションとなっています。

主題：聖アントニウス

聖アントニウスは、3世紀から4世紀に生きたエジプト出身の聖人であり、修道院制度の創始者として知られています。彼は、両親の死後、財産を貧しい人々に分け与え、砂漠に隠遁しました。そこで孤独な生活を送る中で、悪魔の攻撃や誘惑に苦しめられたと伝えられています。悪魔は聖アントニウスを空中に吊り上げたり、身体を引き裂こうとしましたが、神が聖アントニウスの元に現れると逃げ去ったとされています。

作品の特徴

コレッジョは、聖アントニウスの半身像をクローズアップで描いています。聖アントニウスは、物憂げな眼差しでうつむき、胸の前で両手を交差させています。赤い布を左肩にかけ、身体を覆っており、その布は左上からの光によって照らされ、美しい陰影を生み出しています。コレッジョは、聖人を大胆にクローズアップすることで、隠者としての物語の細部や背景を排除し、聖アントニウスの内面に焦点を当てています。聖アントニウスが聖人であることを示すために、伝統的なアトリビュートである小さな鐘が吊るされた杖を左手に持たせています。また、聖アントニウスの、ほとんど恐怖に満ちた表情と開いた口は、彼が内に秘めた孤独と、心を揺さぶられるような人間的な苦悩を表現しています。

図像的関連性

この作品は、コレッジョがサン・フランチェスコ教会のために制作した祭壇画『聖フランチェスコの聖母』に描かれた洗礼者ヨハネの厳しい表情や、メトロポリタン美術館所蔵の『四聖人』に描かれた聖レオナルド、そして『聖ヒエロニムス』との関連性が指摘されています。特に、この作品の聖アントニウスは、『四聖人』の聖レオナルドに近く、後の『この人を見よ』における苦悩するイエス・キリストの先駆けとなったと考えられます。これらの作品において、コレッジョはアンドレア・マンテーニャの厳格な芸術を尊重しつつ、様々な表現を積極的に取り入れています。

影響と表現技法

『修道院長聖アントニウス』において顕著なのは、レオナルド・ダ・ヴィンチの影響です。前景で交差された両手に見られるように、構図を緻密に練り上げ、上半身のひねりによって奥行きを増し、緩やかに背景に溶け込ませています。また、聖人の顔は巧みなキアロスクーロによって光を緩やかに調節し、部分的に影の中に沈み込ませることで、暗い背景の茂みと一体化しているように見えます。これにより、聖アントニウスの表情がより一層深く、内面を表現しているのです。

作品の帰属と制作年代

19世紀の案内書では、この作品はラファエロ・サンツィオの弟子であるポリドーロ・ダ・カラヴァッジョ、あるいは南イタリアの画家アンドレア・ダ・サレルノの作品とされていました。しかし、1901年に美術史家のアドルフォ・ヴェントゥーリが、この作品を若い頃のコレッジョの作品として特定しました。美術史家のデイヴィッド・エクセルジャンは、制作年代を1517年から1518年頃としています。

作品の来歴

発注者や制作経緯、初期の来歴などは不明ですが、顧客の個人的な信仰心に応えるために制作されたことは明らかです。ジロラミーニ教会の聖具室に収蔵されていたこの絵画は、20世紀初頭に発見され、1906年にカポディモンテ美術館に収蔵されました。

この作品は、聖アントニウスの信仰心と内面の苦悩を描き出し、コレッジョの卓越した技術と表現力を示す傑作と言えるでしょう。

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