倉頡輸入法

倉頡輸入法：香港で愛される漢字入力の達人技

1976年、朱邦復氏によって開発された倉頡輸入法は、中国語をコンピューターで入力するための画期的な方法です。伝説の漢字の発明者、倉頡の名を冠し、香港を中心に現在も広く利用されています。台湾では注音輸入法、中国本土では拼音入力法が主流である中、香港における倉頡輸入法の地位は揺るぎないものがあります。

高効率と難読漢字への対応：倉頡輸入法の強み

倉頡輸入法は、漢字を構成する複数の要素（字根）を組み合わせることで入力します。各字根はキーボードの英字に割り当てられており、最大5つの字根を入力することで漢字を表現します。注音輸入法のように同じキーに複数の漢字が割り当てられることが少ないため、入力効率が非常に高く、熟練者はタッチタイピングで高速な入力が可能です。

特に、発音から漢字を推測できない難読漢字にも対応できる点が大きなメリットです。そのため、大量の漢字入力を必要とする職業の人々を中心に、高い人気を誇ります。公的な入力速度コンテストでも、優勝者の多くが倉頡輸入法を使用していることは、その実力の証と言えるでしょう。

直感と複雑さの狭間：字根分解と入力規則

倉頡輸入法の最大の特長であり、同時に理解しにくい点でもあるのが、その字根分解の方法です。「車」を「十田十」に分解するなど、漢字の見た目や構成要素を元に、独自の字根に分割します。これは書道の伝統とは異なるアプローチであり、初心者にとっては習得のハードルが高いと言えるでしょう。また、「龍」を「卜月卜尸心」と分解するなど、独特の規則が存在します。

しかし、この複雑な分解方法が、高い入力効率と難読漢字への対応力を生み出しているのです。熟練者は、この複雑なルールを自在に操り、圧倒的な入力速度を実現します。

バージョンと進化：倉頡輸入法の歩み

倉頡輸入法は、1977年の最初の発表以来、幾度となくバージョンアップを繰り返してきました。1980年のバージョン2、1982年のバージョン3、1985年のバージョン5と、収録文字数や入力規則の改良が重ねられています。現在最も広く使われているのはバージョン3ですが、Microsoft WindowsのIMEにも改良版が搭載されています。バージョン5も香港の一部で使用されています。バージョン間の違いは、「面」や「非」などの漢字の入力方法で確認できます。

最新のバージョン6は、2002年に完成しましたが、公開はされていません。

入力規則と要素の分類

倉頡輸入法では、漢字を「上から下」「左から右」「外から内」といった原則に従って字根に分解し、各字根に対応するキーを入力します。AからYまでのキー（Xは特殊文字、Zは未使用）が使用され、各キーには「日」「月」「木」「水」などの漢字の構成要素が割り当てられています。

字根は大きく7曜類、筆画類、人体類、字型類、特殊類の5種類に分類され、26種類の字根が存在します。特殊類以外の字根は、基本形とその変形（輔助字形）を含みます。バージョン3と5では、輔助字形の数は異なり、バージョン6では更に大幅な変更が加えられています。

さらに、いくつかの字形は「複合字」として扱われ、分解された要素のうち最初と最後の2つの要素のみを入力します。

印刷字体と難字規則：倉頡輸入法の課題

倉頡輸入法では、印刷字体とは異なる字体を入力する必要がある場合があります。また、台湾と香港で字体が異なる場合もあり、注意が必要です。

一部の漢字は、非常に複雑な字根分解を必要とします。このような漢字は「難字」と呼ばれ、専用の「難」キー(X)を使用して入力します。しかし、バージョン6ではこの難字規則は廃止されています。

異体字への対応：Unicodeとの連携

Unicodeには多くの異体字が収録されていますが、旧バージョンの倉頡入力法では、Big5コードに異体字が収録されていなかったため、対応が不十分でした。

倉頡輸入法から派生した入力法

倉頡輸入法は、その高い入力効率から様々な派生入力法を生み出しました。速成輸入法（簡易輸入法）は、字根分解は倉頡輸入法と同様ですが、最初と最後の字根のみを入力する簡略化された方法です。快速倉頡輸入法は、多様な字根分解を許容することで、誤入力への対応力を高めています。新倉頡輸入法、大新倉頡輸入法、乱倉打鳥輸入法、自由倉頡輸入法など、多くの派生入力法が開発され、それぞれに特徴があります。

結論：進化し続ける倉頡輸入法

倉頡輸入法は、その複雑さゆえに習得には時間を要しますが、習得した者にとっては、高速で効率的な中国語入力手段となります。長年にわたる改良と派生入力法の登場により、今後も進化を続けることでしょう。

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