健田村

健田村（たけだむら）は、明治時代初期から昭和中期にかけて、千葉県安房郡（成立当初は朝夷郡）に存在した自治体です。現在の地図上でいうと、南房総市の東部、特に旧千倉町域にあたる地域にその区域が含まれていました。

この村は、1889年（明治22年）4月1日、明治の町村制施行という行政区画の再編成の中で誕生しました。それまで独立していた川戸村、瀬戸村、大貫村、宇田村、牧田村という五つの村が一つに合併することで、「健田村」として新たな歩みを始めたのです。設立当初は朝夷郡に属していましたが、わずか8年後の1897年（明治30年）4月1日には、朝夷郡自体が安房郡に編入されることになり、健田村も安房郡所属となりました。

健田村の発展において特筆すべきは、鉄道網の整備です。1921年（大正10年）6月1日、当時の北条線（現在のJR内房線）が延伸され、安房北条駅（現在の館山駅）から南三原駅までの区間が開通した際、村内に千倉駅が開業しました。駅名は、村の地理的中心性や近隣の拠点である千倉町に由来するものでした。この千倉駅の誕生は、健田村を内房線沿線の主要な交通拠点へと変貌させ、南房総地域を訪れる観光客にとって重要な玄関口としての役割を担うきっかけとなりました。

しかし、自治体としての健田村の歴史は、その成立から約65年で終焉を迎えます。昭和の合併期にあたる1954年（昭和29年）4月1日、健田村は隣接していた千倉町および七浦村と合併しました。この合併により、新たに「千倉町」が発足し、健田村は地方自治体としての役割を終え、廃止されました。

その後、平成の大合併が進む中で、2006年（平成18年）3月20日には、この新制千倉町が、富浦町、富山町、白浜町、丸山町、和田町、三芳村といった周辺の町村と広域合併し、現在の南房総市が誕生しました。健田村が存在した区域は、現在、この南房総市の一部となっています。

自治体としての姿はなくなりましたが、健田村の名は地域の中に残されています。例えば、地元の教育機関である南房総市立健田小学校のように、公共施設の名称としてその名を見出すことができます。これは、かつてこの地に確固たる地域共同体が存在したことを現代に伝える、貴重な名残りと言えるでしょう。現在も、旧村域内にはJR東日本内房線の千倉駅があり、地域の交通インフラとして機能しています。

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