偽牧師

映画『偽牧師』解説

『偽牧師』（原題: The Pilgrim）は、1923年に公開されたサイレント映画で、喜劇王チャーリー・チャップリンが監督・脚本・主演を務めた作品です。この映画は、チャップリンがファースト・ナショナル・ピクチャーズで製作した8作目の映画であり、同社における最後の作品となりました。

概要

本作は、身分詐称という要素を軸に展開されるコメディであり、初期のチャップリン作品に見られるスタイルを色濃く反映しています。脱獄囚がひょんなことから牧師と間違われるという設定は、観客に多くの笑いとユーモアを提供します。

特筆すべき点として、本作はエドナ・パーヴァイアンスとチャップリンが共演した最後の作品となりました。エドナはこの作品の後、『巴里の女性』（1923年）にも出演していますが、チャップリンはカメオ出演に留まっています。

また、後に脚本家として名を馳せるディーン・リーズナーが映画初出演を果たした作品としても知られています。

あらすじ

物語は、チャーリー・チャップリン演じる脱獄囚が、囚人服を脱ぎ捨てて逃亡する場面から始まります。彼は逃げる途中で牧師の服を盗み、ある小さな町にたどり着きます。そこで彼は、新しく着任するはずだった牧師と間違えられてしまい、町の人々から歓迎を受けます。彼は牧師として振る舞おうとしますが、彼の行動はどこかぎこちなく、様々な騒動を引き起こします。

キャスト

脱獄囚：チャーリー・チャップリン
ブラウン嬢：エドナ・パーヴァイアンス

製作の背景

本作は、チャップリン映画としては初めて、即興に頼らず、事前に書かれたシナリオに基づいて製作されました。撮影には42日間が費やされました。

エンディングについては、当初、脱獄囚が町に留まり、教会のオルガンをジャズバンドに変えたり、募金用の皿をギャンブルに使ったりするという、より大胆なアイデアも検討されていました。

反響

しかし、プロテスタントの組織やクー・クラックス・クランからは反発の声も上がり、ペンシルベニア州では一部のシーンがカットされる事態となりました。

トリビア

逃亡中のチャップリンが列車に乗っている場面で、隣に座っている保安官が読んでいる新聞には、彼の役名が「Lefty Lombard」と書かれています。記事によると、「Lefty Lombard」こと「楡の木」（Slippery Elm）は、刑務所の食堂の下水道管から脱獄し、1,000ドルの賞金が懸けられているとのことです。

また、本作中の字幕には「In the good old days before Prohibition」（禁酒法以前の古き良き時代）とありますが、アメリカ合衆国での禁酒法施行は1920年1月16日であり、新聞の日付との矛盾が生じています。

駅で目的地を決める際、チャップリンが最初に選んだのは「SING SING」（シンシン刑務所）という表記でした。

再編集版

1959年、本作は他のファースト・ナショナル社の2作品とともにチャップリン自身によって再編集され、『チャップリン・レヴュー』として公開されました。この再編集版には、チャップリン自身による音楽とナレーションが追加され、「I'm Bound For Texas」という主題歌も挿入されています。

映画『偽牧師』は、チャップリンの才能が光る、笑いと感動が詰まった不朽の名作です。

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