偽装棄教

偽装棄教とは

偽装棄教とは、表面上はそれまで信仰していた宗教を捨てたように振る舞いながら、実際には密かにその信仰を継続する行為を指します。これは、多くの場合、他宗教からの迫害や弾圧が原因で、自身の信仰を公にすることができなくなった状況下で行われます。信仰を捨てたと見せかけることで、迫害を逃れ、信仰を維持しようとする、苦渋の決断とも言えるでしょう。

キリスト教徒の偽装棄教

キリスト教徒の偽装棄教として最も有名な事例の一つが、近世日本における隠れキリシタンです。江戸幕府によるキリシタン禁教令以降、キリスト教徒は仏教への改宗を強制されました。しかし、多くのキリスト教徒は表向きは仏教徒として振る舞いながら、実際には密かにキリスト教の信仰を守り続けました。彼らは潜伏キリシタンと呼ばれ、主に九州地方で信仰を継続しました。

幕府による度重なる弾圧にもかかわらず、一部の地域や家系では明治時代に至るまで、密かにキリスト教の信仰を維持し続けました。これは、信仰を守り抜くという強い意志の表れと言えるでしょう。

イスラム教徒の偽装棄教

イスラム教徒の偽装棄教として有名なのは、近世イベリア半島（現在のスペインとポルトガル）におけるモリスコです。モリスコとは、レコンキスタ（国土回復運動）後にキリスト教に改宗したイスラム教徒の子孫を指します。彼らは表面上はキリスト教徒として生活していましたが、実際にはイスラム教の信仰を保持していました。

モリスコはスペインとポルトガルの支配者から警戒され、迫害の対象となりました。最終的には、異端審問によりキリスト教への改宗か国外追放かを迫られ、多くのモリスコが信仰を捨てざるを得なくなりました。また、異端審問を逃れた場合でも、キリスト教徒からの圧力は非常に強く、モリスコの多くはイスラム教徒としての信仰を現代に至るまで守り抜くことはできませんでした。モリスコの事例は、信仰を守るための偽装が、必ずしも成功するとは限らないことを示しています。

バハイ教徒の偽装棄教

バハイ教徒もまた、歴史的な経緯から、イスラム原理主義者から激しい憎悪の対象とされており、シーア派、スンナ派を問わず、「邪教徒」、「背教者」、「カーフィル」などと非難されています。イスラム原理主義が強い国々では、バハイ教徒はしばしば偽装棄教を強いられています。

特にイランでは、バハイ教の信仰は法律で禁止されており、多くのバハイ教徒はイスラム教徒のふりをして生活しています。これは、バハイ教徒が自身の信仰を守るための、苦渋の選択と言えるでしょう。バハイ教徒の事例は、現代においても偽装棄教が深刻な問題として存在していることを示しています。

偽装棄教の背景にあるもの

偽装棄教は、信仰の自由が保障されていない社会において、信仰を守り抜くための最後の手段と言えるでしょう。しかし、それは同時に、自身のアイデンティティを隠し、偽りの姿で生きることを強いられる、非常に困難な選択でもあります。

偽装棄教の歴史を学ぶことは、信仰の自由の大切さ、そして、自身の信仰を貫き通すことの尊さを改めて認識する上で、非常に重要な意味を持ちます。

関連項目

強制改宗
スペイン異端審問
マラーノ
隠れキリシタン

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