傭兵隊長の肖像 (ベッリーニ)

『傭兵隊長の肖像』（伊: Ritratto di condottiero）は、ルネサンス期ヴェネツィア派の巨匠ジョヴァンニ・ベッリーニによる油彩画で、現在はワシントン・ナショナル・ギャラリーに所蔵されています。この作品は、1786年にヴェネツィアの医師からイギリスの貴族に売却された記録が残るものの、それ以前の来歴は不明です。その後、数々の所有者を経て、1936年にサミュエル H. クレス財団が購入し、1939年にナショナル・ギャラリーに寄贈されました。

作品の概要

この肖像画は、ベッリーニが最も発展させた分野の一つであり、1474年頃から制作が開始されました。ヴァザーリによれば、ベッリーニはモデルを目の前にして肖像画を描く習慣があったため、ヴェネツィアの著名人はこぞって彼に肖像画を依頼したと言われています。ベッリーニはヴェネツィアで肖像画を人気のジャンルにしただけでなく、それまで主流だった横顔の肖像ではなく、4分の3正面向きの肖像を流行させた画家の一人でもあります。

この4分の3正面向きの肖像は、フランドルからイタリアに導入された技法であり、油彩技法も同様にフランドルから伝来しました。常に革新的な技術に目を向けていたベッリーニは、人物像をより巧みに描写する方法として油彩技法を取り入れたのです。

この作品には、暗い背景の中に、4分の3正面向きで描かれた、年老いたイタリアの傭兵隊長（コンドッティエーレ）の胸像が描かれています。傭兵隊長は高貴な錦織のブラウスと青いベレー帽を身につけており、沈鬱で荒々しい表情をしています。この肖像画からは、アントネロ・ダ・メッシーナの影響が見られます。

モデルについて

この肖像画のモデルは、かつてヴェネツィア共和国の元帥ヤコポ・マルチェッロであると特定され、制作年代も1482年から1485年頃とされていました。ベッリーニはマルチェッロの家族の家で、彼の肖像画を制作したと考えられていました。しかし、他にもバルトロメオ・ダルヴィアーノやジョヴァンニ・エーモといった候補も挙げられています。特に、ワシントン・ナショナル・ギャラリーは、モデルをジョヴァンニ・エーモであると特定しています。エーモはヴェネツィアの高官であり、1480年代初頭のフェッラーラとの戦争ではヴェネツィア陸軍の将軍を務めました。モデルがエーモであるならば、制作年代は1475年から1500年頃である可能性を示唆しています。

この作品は、ベッリーニの肖像画技法の変遷を示す重要な作品であり、ルネサンス期のヴェネツィアにおける肖像画の発展を語る上で欠かせない存在です。その写実的でありながらも深みのある描写は、見る者を魅了し続けています。

参考文献

* Olivari, Mariolina (2007). “Giovanni Bellini”. Pittori del Rinascimento. Florence: Scala. ISBN 888117099X

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