元寇防塁

元寇防塁：蒙古襲来に備えた鎌倉時代の防衛施設

元寇防塁（げんこうぼうるい）は、鎌倉時代に二度にわたる蒙古襲来（元寇）に備え、北部九州の博多湾沿岸一帯に築かれた石造りの防塁です。1931年（昭和6年）に国の史跡に指定されました。本来は「石築地（いしついじ）」と呼ばれていましたが、研究者の中山平次郎によって「元寇防塁」と命名され、この名称が定着しました。

防塁築造の背景

1274年（文永11年）の文永の役で元軍の侵攻を受けた鎌倉幕府は、異国警固を本格化させました。翌1276年（建治2年）には高麗出兵を計画するとともに、元の再襲来に備えて石築地の築造を開始しました。

防塁の築造は国ごとに区域を定め、大隅国の記録によれば、武家領や本所一円地を問わず、田畑の面積に応じて賦役が課されました。
1281年（弘安4年）の弘安の役までには一部が完成し、元軍は防塁によって博多への上陸を断念、志賀島に船団を停泊させたとされています。弘安の役後も、幕府は元軍の再襲来を警戒し、防塁の工事や修復を継続しました。工事は鎌倉幕府滅亡の前年、1332年（元弘2年）まで行われています。当時の様子は、御家人・竹崎季長が描かせた『蒙古襲来絵詞』にも描かれています。

防塁の構造

防塁は、平均して高さ・幅ともに約2メートルで、総延長は約20キロメートルに及びます。福岡市西区今津から東区香椎までの海岸線に沿って築かれました。内部には小石が詰められ、陸側に傾斜をつけ、海側は切り立った構造になっています。築造を担当した国によって、構造に若干の違いが見られます。

現存する元寇防塁

弘安の役後も維持・修理されていましたが、時代とともに管理されなくなり、砂に埋もれていきました。江戸時代には、福岡城の築城に際して石垣の石材として利用され、大部分が失われたと考えられています。

1913年（大正2年）に中山平次郎が福岡日日新聞に論説を発表し、防塁の歴史的価値を広く知らしめました。この時、中山によって「元寇防塁」と名付けられ、この呼称が一般化しました。

現在、一部が現存する防塁は1931年（昭和6年）に国の史跡に指定されています（1981年（昭和56年）に一部追加指定）。一部の場所では、石塁が露出した状態で公開されており、見学することができます。

現在の海岸線は、埋め立てによって鎌倉時代よりも沖に延びているため、防塁跡が海岸から離れた内陸部に位置している場所もあります。

長崎県内の防塁

長崎県平戸市田平町から松浦市星鹿町にかけての海岸線約40～50キロメートルにわたり、古代の姿を留めた防塁が現存しています。この地域は開発が進んでいないため、元寇に関連する遺跡が多く残っています。また、「火立場」「血田」「追い出し」などの地名や、昔からの言い伝えも残されていますが、発掘調査などの詳しい調査はまだ行われていません。

まとめ

元寇防塁は、鎌倉時代の日本の防衛戦略を示す重要な遺構です。蒙古襲来という国難に際し、当時の人々が築き上げた防衛施設は、現代においてもその歴史的価値を伝え、後世に語り継ぐべき貴重な文化遺産となっています。

出典

福岡市教育委員会　「福岡市西新元寇防塁発掘調査概報」『福岡市埋蔵文化財調査報告書』11　福岡市　1970年
福岡市教育委員会　「国史蹟　元寇防塁（生きの松原地区）復元・修理報告書」　福岡市教育委員会　2001
福岡市教育委員会　「西新地区元寇防塁発掘調査報告書」福岡市教育委員会　2002
川添昭二「元寇防塁が語るものー福岡市史編さんに備えて」市史研究　ふくおか　創刊号　福岡市博物館市史編さん室　2006.3 p.5-39

関連項目

元寇
元寇資料館

外部リンク

元寇防塁 - 国指定文化財等データベース（文化庁）
福岡市教育委員会文化財部 福岡市の文化財 - 鎌倉時代
元寇・防塁の跡
全国遺跡報告総覧－ 奈良文化財研究所
逃の浦防塁や千人塚調査レポ
千人塚

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