先体

先体（Acrosome）とは

先体は、精子の核の先端部分を帽子のように覆っている構造体であり、精子が卵子と受精するために不可欠な役割を果たします。精子細胞が成熟し、精子へと変形する過程で、細胞内のゴルジ体という器官から形成されます。別名として「尖体」とも呼ばれます。

先体の構造と成分

先体は、内部に様々な酵素を含んだ袋状の構造をしています。これらの酵素は、先体物質と呼ばれ、主に脂質、糖タンパク質複合体から構成されています。代表的な先体物質としては、以下のものが挙げられます。

ヒアルロニダーゼ (Hyaluronidase)：卵子を取り囲む細胞層である卵丘細胞間のヒアルロン酸を分解する酵素です。これにより、精子は卵丘細胞の間を通り抜け、卵子に近づくことができます。
アクロシン (Acrosin)：卵子の透明帯を分解する酵素です。透明帯は、卵子を保護する役割を持つ強固な膜であり、アクロシンによって分解されることで、精子は卵子内部へ侵入することが可能になります。

先体反応

先体が受精において最も重要な働きは、先体反応と呼ばれる一連の過程です。先体反応は、精子が卵子に接触した際に引き起こされ、以下のステップで進行します。

1. 卵子との結合: 精子が卵子の表面にある特定の受容体と結合します。
2. 細胞膜の融合: 精子の細胞膜と先体の外膜が融合し、小胞を形成します。この過程で、先体内の酵素が放出されます。
3. 透明帯の分解: 放出されたアクロシンなどの酵素が、卵子の透明帯を局所的に分解します。
4. 卵子への侵入: 透明帯に開いた穴を通って、精子は卵子の細胞膜に到達し、融合します。

先体反応は、種特異的な反応であり、特定の種の精子は、その種の卵子とのみ正常に先体反応を起こすことができます。この機構は、異なる種の間の受精を防ぐ役割を果たしています。

受精能獲得との関連

精子が卵子を受精させる能力を獲得する過程を受精能獲得(Capacitation)といいます。先体反応を起こすためには、精子がメス生殖器内で一定の時間を過ごし、受精能を獲得する必要があります。受精能獲得の過程で、精子の細胞膜の構造が変化し、先体反応を起こしやすくなります。

参考文献

江口保暢　『動物発生学第2版』　文永堂出版　2002年　ISBN 4-8300-3170-0

関連項目

胚発生
* 受精能獲得(en:Capacitation)

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