先史考古学

先史考古学の概略

先史考古学（せんしこうこがく）は、文字による記録が存在しない先史時代を対象にした考古学の一分野です。この学問は、過去の人間社会や文化、生活様式に関する遺物や遺構を研究し、先史時代の人々の活動を明らかにするための手法として考古学的方法論を活用します。また、先史考古学は先史学や史前学とも呼ばれることがありますが、これらの用語は時に他の研究アプローチを含む場合もあります。

先史考古学とその位置づけ

先史考古学は、文字文献の有無によって原史考古学と歴史考古学とで区別されます。文字が存在し、不完全ながらも文書による記録が得られる時代が原史考古学と定義され、一方、豊富な文献資料が存在する時代は歴史考古学の範疇に入ります。このため、先史考古学と歴史考古学は、単なる時間の流れのみならず、その対象とする文化的背景の違いによっても区別されるのです。

例えば、オーストラリアではアボリジナルの先住民族が文字文明を持たなかったため、ヨーロッパ人が本格的に入植する前の考古学研究は先史考古学に分類されます。しかし、日本の場合、江戸時代に入っている18世紀後期の考古学調査（旧鎌原村など）は、既に文字資料が存在しているため、歴史考古学として扱われます。このように、同じ時代でも地域によって先史考古学と歴史考古学の区分が異なることがあります。

日本における先史考古学の実際

日本国内では、先史考古学と歴史考古学が具体的にどのように適用されるのかを考えると、9世紀や10世紀を扱った考古学調査では、本州や四国、九州地域は平安時代の歴史考古学が適用されます。一方で、北海道では擦文時代を対象とした先史考古学が行われています。この背景には、本州とは異なる独自の歴史的経緯を有する北海道の人々が存在しているため、先史学の対象に含まれるのです。

先史考古学の発展と学問的意義

先史考古学の発展に大きく寄与したのは、19世紀後半にスウェーデンの考古学者オスカル・モンテリウスによって確立された型式学的研究法です。この方法論は、歴史的文脈を有さない先史時代の遺物を整然と分類し、その変化を追跡することを可能にしました。実際、スウェーデンの考古学者オーベリは、「先史考古学は、この研究法の確立によって科学として確立された」という見解を述べています。

この学問は、単に先史時代の遺物を明らかにするのみならず、人類の進化や文化の発展に対する理解を深め、また現代社会における文化の形成にも寄与する重要な学問分野です。先史考古学は、過去の人類とその文化に対する深い考察を行うことを可能にし、私たちの歴史観や世界観を豊かにしてくれるのです。

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