先軍政治

先軍政治とは

先軍政治（せんぐんせいじ）、または先軍思想（선군사상）とは、朝鮮民主主義人民共和国（北朝鮮）で特に金正日政権のもとで広まった公式の政治イデオロギーです。この思想は、軍事をすべての活動において優先し、朝鮮人民軍を社会主義の建設における主要な力と位置づけるものです。2009年には北朝鮮憲法において主体思想と並ぶ指導思想として明文化されました。

金正日政権下の先軍政治

1997年、金正日が朝鮮労働党中央委員会総書記に就任した際、先軍政治という言葉が北朝鮮のマスメディアに初めて登場しました。金正日は「先軍政治は私の基本的な政治方式であり、我々の革命を勝利に導くための万能の宝剣です」と語り、人民軍をチュチェ革命の中心的な軍隊として位置付けました。このような発言からも明らかであるように、先軍政治は従来のマルクス・レーニン主義が重視するプロレタリアートの役割とは根本的に異なる特色を持っています。

北朝鮮の文献を見ると、他の社会主義国家が「先党後軍」の原則を採用し、労働者階級の政党を先に築いた後で軍を形成するのに対し、北朝鮮では金日成によって朝鮮人民軍の前身である朝鮮人民革命軍が創設され、祖国解放を経た後に朝鮮労働党が設立されたとしています。これは、軍事的な取り組みを国家の基盤とする独特な歴史的背景に基づいています。

また、金正日政権は、過去の社会主義国の崩壊についても言及し、軍事問題を適切に解決しなかったことが政権崩壊に繋がったと分析しています。

先軍政治が広まるとともに、金正日による軍事視察が頻繁に報じられるようになりました。さらに2002年には日朝平壌宣言に調印する際、彼は「朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員長」として登場し、党の地位よりも軍が強調されている様子が伺えます。これについて、北朝鮮問題の専門家は、軍が党を指導する状態になっており、事実上の軍事政権が形成されつつあったと分析しています。

金正恩政権における変化

2016年には金正恩政権が最高人民会議を通じて憲法の改正を行い、国防委員会を廃止して国務委員会を設置しました。この動きは、金日成時代のように労働党中央を中心とした指導体系に戻すことを意図しているとされています。これに伴い、軍部に関連する重要な人事が行われ、国務委員会の副委員長には党の主要メンバーが任命されるなど、軍事優先の姿勢が若干の見直しを受けていることも意味します。

以降、「先軍政治」という言葉はあまり使われず、「軍事優先」という表現が一般的になったとの指摘もあります。こうした動向から、北朝鮮の政治構造における変化が見て取れます。

最後に

先軍政治は北朝鮮の政治思想を代表するものであり、軍が社会において果たすべき役割を極端に重視した体制です。この思想は今後も地域政情や国際政治に影響を与え続けることでしょう。

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