光 (2017年の河瀨直美監督の映画)

映画『光』（Radiance）

2017年に公開された日本のドラマ映画。国際的に高い評価を得ている河瀨直美が監督と脚本を手掛けた作品です。俳優の永瀬正敏、水崎綾女が主演を務め、神野三鈴、小市慢太郎、藤竜也、樹木希林といった実力派キャストが集結しました。

物語

物語の中心となるのは、視力を次第に失っていく苦悩を抱える写真家・中森雅哉と、視覚障害を持つ人々に映画の世界を言葉で伝える音声ガイドの制作に情熱を注ぐ尾崎美佐子の出会いと交流です。光を捉えること、そして言葉を通じて見えない世界を形作ること。それぞれが異なる形で「見ること」や「伝えること」と向き合う中で、二人は互いの存在に触れ、内面の変化を経験していきます。本作は、視覚や言葉、そして他者との繋がりを通して、世界をどのように認識し、生きていくのかという根源的な問いを投げかけます。

国際的な評価

本作は、世界で最も権威ある映画祭の一つである第70回カンヌ国際映画祭のメインコンペティション部門に正式に選出されました。河瀨直美監督にとっては、自身の作品がカンヌのコンペ部門に選ばれるのがこれが8度目となり、日本人監督として最多の記録を更新しました。主演の一人である永瀬正敏も、出演作が3年連続でカンヌ映画祭に出品されるという、日本人俳優としては初の快挙を成し遂げています。残念ながら最高賞であるパルム・ドール受賞には至りませんでしたが、カトリックとプロテスタントの映画人が選出する独立賞、エキュメニカル審査員賞を受賞しました。これは、日本人監督作品としては、2000年に青山真治監督の『EUREKA』が受賞して以来、17年ぶり二度目の受賞という栄誉でした。

キャストと役作り

主要キャストは、視覚障害が進む写真家・中森雅哉を永瀬正敏が、彼と心を通わせる音声ガイド制作者・尾崎美佐子を水崎綾女が演じています。脇を固めるのは、神野三鈴、小市慢太郎、早織、大塚千弘、大西信満、堀内正美、白川和子といった多彩な俳優陣です。また、藤竜也が劇中に登場する映画の監督とその劇中人物を演じ、樹木希林が音声ガイドとして声の出演を果たしました。

本作の製作にあたり、俳優陣は役柄への深い理解を追求しました。永瀬は、自身が演じた写真家・雅哉の部屋に飾られる写真をすべて自ら撮影するという徹底ぶり。さらに、弱視であるという役柄を体感するため、撮影期間中は視界が限られる特製のゴーグルを常時着用して過ごしたと語っています。水崎もまた、担当した音声ガイドの原稿を自ら執筆し、役作りのために河瀨監督の過去作『あん』の音声ガイドを個人的に制作するなど、役への没入を深めました。永瀬と水崎は、撮影に入る前に、それぞれの役が暮らす設定の部屋セットで実際に生活し、役柄の日常や感情を肌で感じる時間を持ちました。

製作の背景と劇中映画

河瀨監督が本作の着想を得たのは、自身の映画『あん』の音声ガイドに触れた経験がきっかけだったと述べています。視覚以外の感覚を通じて映画を鑑賞する世界に興味を持ち、それを支える人々の存在に光を当てたいと考えたそうです。主要な撮影は、監督の地元でもある奈良県で、2016年10月16日に始まりました。

また、本作には『その砂の行方』という短編の劇中映画が登場します。これは、藤竜也演じる北林監督が手掛けた作品という設定で、本編と同じ製作チームによって実際に制作されました。映画公開後、この劇中映画への関心が高まり、全編16分版が一部の劇場で本編と同時上映されるという異例の展開も見せいでが行われました。

『光』は、視覚というテーマを通して、他者とのコミュニケーションや、世界と向き合う自身のあり方を問い直す、静謐でありながらも示唆に富んだ作品として国内外で高い評価を受けました。

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