光あらたに

神奈川県民歌「光あらたに」：復興の象徴と幻の4番

「光あらたに」は、神奈川県が誇る県民歌です。作詞は村瀬輝光、補作は勝承夫、作曲は飯田信夫が手掛けました。この歌は、戦後の荒廃から立ち上がり、観光・貿易立県として、また日本の表玄関である横浜港を抱く神奈川県の復興への願いが込められています。

制定の経緯

神奈川県が最初に制定した県歌は、1931年に発行された小冊子に掲載された「神奈川県々歌」でしたが、普及には至りませんでした。太平洋戦争終結後の1948年、県章制定を機に、県民が心から愛唱できる県民歌の制定が発案され、歌詞の公募が行われました。1677編もの応募作品の中から、相洋高等学校教諭であった村瀬輝光氏の作品が選ばれ、補作を経て1950年4月10日に「光あらたに」として制定されました。歌唱はビクターレコードに依頼され、藤井典明と藤原亮子のデュエットによるSP盤が製造されました。

1966年には、三浦洸一と渡辺はま子のデュエットによるカバーシングル盤が制作されました。県は、このカバー盤を通じて県内の小中学校で歌唱指導を計画しましたが、県教育委員会が教職員組合の反対を理由に消極的な姿勢を示したため、県庁から各学校へ直接「利用のお願い」をする形となりました。県はフォークダンス風の振り付けを制作するなど普及に努めましたが、後述する4番の歌詞の問題や、横浜市歌の存在などから、普及は限定的なものとなりました。

2021年、神奈川新聞の調査報道をきっかけに、県議会で県民歌に関する質問が行われ、黒岩祐治知事は県庁の電話保留音への採用や県立高校での歌唱指導を検討する方針を表明しました。

歌詞の特徴

「光あらたに」は、戦後の復興と、国際貿易港としての神奈川県の発展、そして平和で文化的な県を築く決意を高らかに歌い上げています。歌詞は、希望に満ちた未来への展望を描き出し、県民の心を鼓舞する力強いメッセージを伝えています。

幻の4番

制定当初、「光あらたに」には4番まで歌詞が存在していました。しかし、その4番の歌詞には「鎚の響」「黒けむり」など、公害を連想させる表現が含まれていたため、1965年に津田文吾知事が「時代にそぐわない」として歌詞の改訂を指示しました。当初は作詞者の同意を得て改訂する方針でしたが、作曲者の飯田信夫氏が編曲を拒否したため、結論が出ないままカバー盤のレコーディングが行われました。その後、1968年に4番は正式に廃止され、公の場では歌われなくなりました。

音源

「光あらたに」は、これまでに再発盤を含めて6回のレコード・CD化が行われています。制定時のレコード録音以外に公式の音源が作られない県民歌が多い中で、これは異例の多さです。

現存する音源は以下の通りです。

SPレコード（藤井典明、藤原亮子デュエット、4番あり）
再発盤シングル（藤井典明、藤原亮子デュエット、4番あり）
カバー盤（三浦洸一、渡辺はま子デュエット、4番あり/なし）
「みどりの賛歌」カップリング（湘南市民コール、4番なし）
* 貸出用シングルCD（児童合唱団、4番なし）

「光あらたに」は、神奈川県の歴史と県民の想いを伝える貴重な歌です。4番の歌詞が削除されたという経緯もまた、時代とともに変化する価値観を反映していると言えるでしょう。この歌は、これからも神奈川県のシンボルとして、県民に愛され続けることでしょう。

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