光学 (アイザック・ニュートン)

アイザック・ニュートンの『光学』：光と色の謎に迫る実験と哲学

アイザック・ニュートンが1704年に発表した『光学』(Opticks)は、彼の光学研究の集大成であり、科学史に多大な影響を与えた重要な著作です。ラテン語で書かれた『自然哲学の数学的諸原理』とは対照的に、英語で書かれた本書は、当時の科学界のみならず、18世紀の文学にも影響を与えました。特に、光を粒子と捉えるニュートンの粒子説は広く知られています。

本書の構成と内容

序文では、ニュートン自身が本書の執筆過程について触れています。1670年代に王立協会で発表した論文を元に、その後10年以上かけて執筆されたことを記しています。

本書は大きく3つの篇から構成されています。

第一篇: 1672年に王立協会で発表された「光と色についての新理論」をベースとしています。ここでは、白色光は様々な色の光が混ざり合ったものであること、そして色の違いによって光の屈折率も異なることを示しています。これは、当時の「光は本来白色であり、屈折によって色がつく」という常識を覆す画期的な発見でした。

第二篇: 1675年に王立協会に送られた論文を元に、色彩現象について詳細に論じています。特に、凸レンズを用いた巧みな実験によって、膜の厚さと現れる色の関係性を数量的に示しています。この現象は現在「ニュートンリング」として知られています。

* 第三篇: 回折現象について論じています。そして、本書の核心ともいえる「Queries（疑問）」の章が収録されています。初版では16個だったこの問いは、版を重ねるごとに増加し、最終的には31個にも及び、70ページにもわたる考察が加えられました。

Queries：未来への問いかけ

第三篇の末尾にある「Queries」は、ニュートンの光学観のみならず、物質観や神学的な見解まで示しており、後世の科学者たちに大きな影響を与えました。ニュートンの自然哲学の本質が凝縮されており、未来の研究者への課題が提示されています。

20世紀のニュートン著作集の序文で、バーナード・コーエンは「『光学』の一般読者は、他の箇所よりも最後の『問い』の部分をもっぱら面白がるのではないか」と述べています。この章は、未解決の科学的問題への探求を促し、自然と創造主との関係性さえも垣間見せてくれる、と評されています。

ニュートンの光学理論と影響

ニュートンは1669年にケンブリッジ大学のルーカス教授職に就任し、光学の講義を行っていました。そのため、本書の刊行前から彼の光学理論は広く知られており、ジョン・ロックの『人間知性論』の草稿にも影響が見られると言われています。

『光学』は、ニュートンの精密な実験と鋭い洞察に基づいた、光の本質を探求する画期的な著作です。その内容は、科学の発展に多大な貢献をしただけでなく、哲学や文学にも大きな影響を与え、現代に至るまで多くの研究者や思考家を魅了し続けています。本書は単なる科学書を超え、ニュートンの世界観と自然への深い探究心を知るための重要な文献となっています。

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