全日空横浜サッカークラブ・ボイコット事件

1986年 3月22日、東京都北区の国立西が丘サッカー場で行われた日本サッカーリーグ（JSL）第22節、全日空横浜サッカークラブ対三菱重工業サッカー部戦。この試合で、全日空横浜に所属する6選手が試合をボイコットするという前代未聞の事件が発生しました。

事件の背景

当時、日本サッカー界はアマチュア規定に縛られていました。しかし、読売クラブや日産自動車サッカー部、全日空横浜などの一部クラブでは、実質的なプロ契約である「契約選手」制度を導入し、チーム強化を図っていました。全日空横浜もその一つで、選手は全日空スポーツに嘱託社員として雇用され、サッカーを専業としていました。

しかし、待遇面では不透明な部分が多く、ベテラン選手と若手選手、古参選手と移籍組の間で収入格差が生じていました。また、練習環境も十分とは言えず、選手たちは不満を募らせていました。

事件の経緯

JSL2部時代は、横浜サッカークラブがチームを運営していましたが、全日空スポーツ設立後は運営が全日空スポーツに移管。全日空スポーツは一部選手の解雇や給与未払いを通告し、選手との間に軋轢が生じました。1985年にはストライキも発生し、一時的に事態は収束したものの、根本的な問題は解決されませんでした。

1986年、チームはJSL1部で最下位となり、2部降格が決定。全日空スポーツはチームの若返りを図るため、主力選手を含む9人の解雇を決定しました。これに対し、解雇された選手たちは「待遇改善を求めた側を切り捨てた」と反発を強めました。

ボイコット決行

そして迎えた三菱重工戦。この試合は消化試合ではありましたが、選手たちは解雇決定に対する抗議として、試合開始直前にボイコットを表明。6選手が競技場を後にしました。

急遽、控え選手を起用して試合は行われましたが、全日空横浜は10人で戦うことを余儀なくされ、1-6で大敗。この敗戦で、全日空横浜はJSLワースト記録を更新しました。

選手たちの主張

ボイコットを行った選手たちは、「給与体系の見直し」「解雇の不当性と将来の身分保障」「練習環境の改善」を訴えました。しかし、チーム内部からは、社員選手と契約選手の間の確執や、全日空スポーツという企業の脆弱性が事件の根底にあるという証言も出ています。

事件への反応と処分

この前代未聞の事件に対し、世間からの批判は大きく、監督や選手からも非難の声が上がりました。JFA（日本サッカー協会）は緊急規律委員会を招集し、6選手に対し無期限登録停止処分という重い処分を下しました。これは事実上の永久追放に相当するものでした。

一方、全日空横浜には3か月間の公式戦出場停止処分が科せられました。また、全日空は監督を解任し、運営体制の見直しを行うことを表明しました。

事件の影響

この事件は、日本サッカー界に大きな影響を与えました。JFAは新たな選手登録制度を導入し、プロ選手の登録を正式に認めました。これは、長年議論されてきたプロアマ問題に終止符を打つものでした。

また、この事件は全日空横浜の内部から「横浜サッカークラブ」の色彩を一掃する後押しとなり、チームは後に「全日空サッカークラブ」と改称。しかし、企業依存からの脱却を目指す人々は、新たな地域密着型クラブを設立し、現在もJリーグで活躍しています。

その後

無期限停止処分を受けた選手のうち、5人は後に処分が解除されました。全日空サッカークラブは横浜フリューゲルスと改称しJリーグに参戦しましたが、1998年に横浜マリノスに吸収合併されました。しかし、その理念は地域に根ざしたクラブとして、今も息づいています。

全日空横浜サッカークラブ・ボイコット事件は、アマチュア規定下の日本サッカー界におけるプロ化の波、チーム内の待遇格差、そして解雇問題が複雑に絡み合った結果として起きた事件でした。この事件を機に、日本サッカー界は大きく変革を遂げ、プロ化へと舵を切ることになったのです。

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