全身刑事

テレビ朝日系の『日曜プライム』枠で2020年2月2日に放送されたスペシャルドラマ『全身刑事』は、異色のバディが殺人事件の真相に迫る姿を描いたミステリーです。

物語は、神奈川県警・山手中央署の管轄内で発生した殺人事件から幕を開けます。捜査一課の管理官である海東隼人は、女性刑事の紋田伊代と共に現場へと急行します。被害者は輸入雑貨販売会社の経営者である九条佑香。彼女は後頭部を鈍器で殴打されて命を落としていました。現場に残されていた凶器のハンマーをみた海東は、その独特な形状から、これが消防士が人命救助に使う特殊な道具であると看破します。海東は警察庁に歴代トップの成績で入庁したエリートキャリア組ですが、実は学生時代に“伝説のクイズ王”として名を馳せていたという過去を持ちます。しかし、その豊富な雑学知識を実際の事件捜査にうまく活かせず、各部署を転々とさせられ「さすらいのクイズ王」と皮肉られていました。そのため、捜査官としての経験を積むべく神奈川県警へ赴任してきたばかりでした。自身にとって赴任後初の殺人事件に、海東は強い意欲を持って捜査に臨みます。

被害者の携帯電話の通話記録を調べた結果、九条氏が度々、近くの消防署の訓練の騒音について、消防隊長の佐村依宏に苦情の電話をかけていたことが判明します。このことから、海東は佐村を容疑者として署に連行。しかし、取り調べを開始しようとした矢先、捜査本部が置かれた山手中央署の署長、羽倉樫弥に呼び出され、捜査にベテラン刑事を加えるよう指示されます。そこに現れたのは、捜査とは無縁に見える総務課備品管理係の名瀬裕太郎でした。海東は総務課の職員が捜査に加わることに反発しますが、署長は名瀬が1年間の休職を経て現職に就く前は、刑事としてその人生の大半を過ごし、「頭のてっぺんからつま先まで“全身そのものが刑事”」と呼ぶにふさわしい男だと説明します。

不承不承ながら、“全身刑事”と称される名瀬と共に佐村の取り調べを開始する海東。しかし、名瀬は海東の捜査の進め方に対し、「なぜそう考えるんだ？」「なぜ佐村が犯人だと言えるんだ？」と、「なぜ？なぜ？」と繰り返し問いかけ、海東は自分のペースを崩されてしまいます。その後、消防署での聞き込み捜査によって、佐村には事件発生時刻に署内で夜通しカレーを煮込んでいたという、有力なアリバイがあることがわかります。しかし、佐村本人はなぜかこのアリバイについて多くを語ろうとしません。さらに捜査を進める中で、佐村が部下である樋本香緒里に対し、訓練中にパワハラを行っていたのではないかという疑惑が浮上し、事件は複雑な様相を呈していきます。

主要登場人物としては、内藤剛志演じる名瀬裕太郎が、その独特な「なぜ？」を繰り返す捜査スタイルと、ベテラン刑事としての洞察力で物語の中心となります。彼は総務課の備品管理係という地味な部署にいながら、事件の核心を見抜く力を持っています。名瀬は大阪出身のため、時折関西弁を話すこともあります。笠松将が演じる海東隼人は、警察庁キャリアの若き管理官。元クイズ王の経歴を持ち、雑学知識が豊富ですが、それが捜査で裏目に出ることも。雑学を披露したり、閃いた際にクイズ番組の解答ボタンを押すようなジェスチャーをする癖があり、名瀬からは「クイズ王」と呼ばれます。紋田伊代（演：中山忍）は、海東の相棒となる女性刑事で、かつて名瀬とコンビを組んでいました。

他にも、被害者の九条佑香（演：鳥居かほり）、殺人容疑をかけられる消防隊長の佐村依宏（演：尾美としのり）、パワハラ疑惑のある部下の消防士、樋本香緒里（演：中村ゆりか）などが登場し、それぞれの思惑や過去が事件に関わっていきます。特に樋本は、幼い頃に火事で消防士に救われた経験から消防士になったという背景を持ちます。署長の羽倉樫弥（演：古田新太）は、かつて名瀬に鍛えられた経験から彼に恩義を感じており、名瀬の指示で異色のコンビを結成させます。名瀬には、病で他界した妻・郁乃（演：堀内敬子）と娘の菜乃花（演：久松郁実）がおり、家族との関係性も描かれます。

このドラマの見どころは、何と言っても対照的な二人の主人公が織りなす捜査劇です。豊富な雑学知識を持つ論理的な海東と、経験と直感、そして「なぜ？」の問いかけで本質に迫る名瀬。“さすらいのクイズ王”と“全身刑事”という異色のバディが、互いのスタイルに戸惑いながらも、やがて協力して事件の真相、そして登場人物たちの隠された人間ドラマを解き明かしていく過程が丁寧に描かれています。過去の出来事や登場人物同士の複雑な関係性が絡み合い、見応えのあるミステリーとなっています。

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