全身小説家

全身小説家

『全身小説家』（ぜんしんしょうせつか）は、原一男監督が1994年に制作した日本のドキュメンタリー・ドラマ映画です。この作品は、著名な作家井上光晴の晩年を追い、彼の創作活動や講義を記録しています。井上の人生と作品に深く切り込んだこの映画は、第7回東京国際映画祭の「アジア秀作映画週間」部門にて上映されました。

井上光晴と「全身小説家」

映画のタイトル「全身小説家」は、作家の埴谷雄高が井上について評した言葉に由来しています。この言葉は、「存在そのものが小説家であり、骨の髄まで小説家である」という意味を持ちます。井上は、自身の経歴や人生経験をもとに小説を書いていましたが、晩年にがんの告知を受けてからも講演や創作活動を本業として続けました。

この映画では、井上が設立した「文学伝習所」での講義や講演の模様が描かれており、彼の文学への情熱が伝わってきます。また、作中では井上ががんと闘う姿勢も強調され、彼の創作に対する真摯な姿勢が強く印象に残ります。

自らの歴史を虚構とした作家

井上は、私小説という形式を否定していましたが、自身の経歴やエピソードが実際には虚構であることが死後明らかになりました。彼が語った人生の物語は、実際には多くの虚構に基づいていたのです。長い間、彼が語り続けた自身に関するさまざまな情報が、本質的には詐称であったことは、彼の存在自体が文学の一部であることを示しています。

この点において、井上光晴はまさに「全身小説家」と呼ぶべき人物と言えます。小説と現実の境界を曖昧にした彼の人生は、観客に深い思索を促します。

家族とのつながり

井上の娘、井上荒野の小説『あちらにいる鬼』（2019年出版）では、家族に密着した撮影の様子が描かれています。彼の家族との関係や影響は、井上の作品にも色濃く反映されているため、この小説を通じて家族の視点からの井上像を知ることができます。

キャストと受賞歴

本作には、井上光晴を演じる俳優たちをはじめ、井上の家族や文学仲間も多数登場します。主要キャストには井上郁子、埴谷雄高、瀬戸内寂聴などが顔を揃えています。

『全身小説家』は、数々の映画賞を受賞しており、その中には第4回日本映画批評家大賞の作品賞や第49回毎日映画コンクールの日本映画大賞などがあります。また、第18回日本アカデミー賞においても特別賞を受賞しており、映画としての評価も高いことが伺えます。

まとめ

『全身小説家』は、井上光晴の複雑な人生を描いた文化的な作品であり、文学と人間の本質について考えさせられる映像作品です。彼の人生を通して、私たちは文学が持つ力を再認識し、虚構の中に潜む真実を見つめ直す機会を得るでしょう。

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