全開で飛ばせ

大藪春彦の『全開で飛ばせ』



『全開で飛ばせ』（フル・スロットルでとばせ）は、1969年に大藪春彦によって発表された連作短編小説で、スポーツカーとハードボイルドの要素が融合した作品です。この小説は1967年から1968年にかけて月刊誌「宝石」に連載された後、1969年に単行本として刊行されました。また、この作品は電子書籍や劇画としても展開されています。

概要



大藪春彦は1965年に銃器不法所持の容疑で逮捕され、その結果、3年間猟銃所持許可の取り消しが課されました。本作はその取り消し期間中に執筆されました。大藪は当時モータースポーツに夢中であり、この情熱が作品に強く反映されています。物語は、同一主人公が様々なスポーツカーを乗りこなしながら、一次元的なストーリーを展開する形式で書かれています。

この小説では、登場人物や車のデザインに隠されたタフさを描くことに重点が置かれています。各エピソードにおいて異なるスポーツカーが登場し、それに関連するスペックや用語解説も欄外に付記されているのが大きな特徴です。これは新書版や文庫版でも継承され、専門家の視点から時代に即した記載がなされました。

作者は1983年の角川文庫版の序文で、本作が1973年の排気ガス規制施行前に書かれたものであり、取り上げた車種が今やクラシックカーになっていることに言及し、それでもなお読まれる価値を見出していると述べています。また、1990年の光文社文庫版の序文では国産車の進化について自身の考えを語っており、作品への深い愛情が伝わってきます。さらに、電子書籍版には光文社文庫版のテキストが使われていることも注目されます。

あらすじ



物語の主人公は嵯峨幸夫、32歳の作曲家でありながら、ラリー・ドライバーとしての顔を持つ特殊工作員です。彼は10台の異なる車を駆使して国家や社会に潜む陰謀と立ち向かいます。彼の冒険はスマートで機知に富んだものから、時には過酷で危険な任務も含まれており、読者はドキドキしながら彼の活躍を追いかけることになります。


物語は全10話構成で、それぞれが異なるスポーツカーを題材にしています。以下に主要なエピソードを示します:

1. ポルシェ911S - 嵯峨幸夫が第三京浜で囮となる冒険。
2. ランチア・フラヴィア・クーペ - 密入国基地を撃破する彼の姿。
3. フェラーリ275GTB - 調布バイパスでスパイを退治。
4. アストン・マーティンDB6 - 雪中での追跡劇。
5. フィアット・アバルト1000 ビアルベロ - 産業スパイに立ち向かう。
6. シェルビー・コブラGT500 - 国外脱出ルートの攻撃。
7. マゼラッティ・クアトロ・ポルテ - 武器工場を破壊。
8. アルファ・ロメオ1750GTV - 資金奪還作戦の展開。
9. スカイライン2000GTR - 誘拐事件の解決。
10. ランボルギーニ・ミウラP400 - 隠し預金を暴く.

出版履歴



本作は以下のようにして様々な形で出版されています:

また、1978年には劇画『特殊工作員 嵯峨幸夫事件簿』としても展開されました。

『全開で飛ばせ』は、ただのエンターテインメントではなく、時代や車文化の変遷をも感じさせる深い作品です。この作品を通じて、スポーツカーと冒険の世界に身を浸してみてはいかがでしょうか。

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