公債 (映画)

映画『公債』：チャップリンが描いた「絆」と葛藤

『公債』（The Bond）は、1918年にチャールズ・チャップリンが監督・脚本・主演を務めた短編映画です。第一次世界大戦中、アメリカ政府が発行した戦時公債「自由公債」の購入を促進するために製作され、全米の映画館で無料上映されたプロパガンダ映画という側面を持っています。

概要

映画は、様々な「絆」を寸劇形式で描き出し、「絆」と「公債」をかけて自由公債の重要性を訴える内容です。表現主義映画を思わせる特徴的なセットが用いられ、黒一色の背景に単純化された構図、照明で強調された小道具などが印象的です。

劇中では、チャップリン自身が異父兄シドニー扮するドイツ皇帝を「自由公債」と書かれたハンマーで打ち倒すシーンがあり、観客に公債の購入を呼びかけます。

現在、『公債』は「チャップリン短編集」に収録されていますが、製作の経緯から音楽は付いておらず、ラストシーンの映像に劣化が見られる部分があります。

製作の背景

チャップリンは『犬の生活』の編集を終えた後、ダグラス・フェアバンクスやメアリー・ピックフォードらと共に自由公債募集の強化ツアーに参加しました。各地で演説を行う様子はニュースフィルムにも残されています。ツアーから戻ったチャップリンは、当初『カムフラージュ』という作品の製作に取り掛かりましたが、自由公債に関する短編映画の製作依頼を受け、急遽本作の製作に着手しました。

イギリスで公開された版では、アメリカを象徴するアンクル・サムの登場場面が、イギリスを象徴するジョン・ブルの登場場面に差し替えられています。

チャップリンの葛藤

自由公債募集ツアーへの参加や『公債』の製作は、チャップリンが第一次世界大戦を積極的に支援したように見えるかもしれません。しかし、実際にはチャップリンは明確な反戦主義者であり、自伝の中で当時の心境を複雑な思いを吐露しています。

当時のアメリカでは、保守派を中心にチャップリンへの批判が強まっていました。その中心は、「チャップリンが兵役を忌避している」というものでした。チャップリン自身は徴兵検査で不合格となっており、兵役忌避者という批判は事実無根でしたが、批判は収まりませんでした。また、イギリス国籍のままアメリカ国籍を取得しなかったことも、批判の対象となりました。

チャップリンのマネジメントを担当していた異父兄のシドニーと顧問弁護士のネイサン・バーカンは、チャップリンが「愛国的ではない」という理由で人気を失うことを恐れ、チャップリンに戦争協力活動への参加を強く勧めました。チャップリン研究家の大野裕之氏によれば、チャップリン家のアーカイヴに残された当時の書簡には、シドニーとバーカンの焦りが記されているとのことです。

チャップリンは最終的にシドニーとバーカンの説得を受け入れ、『公債』の製作に乗り出しましたが、その「やる気」は現存するNGフィルムに垣間見えます。NGフィルムには、チャップリンが天使役の子役と遊んでいる様子や、ドイツ皇帝をハンマーで叩きのめす場面でわざと空振りする様子などが収められています。

特徴的なセット

『公債』の大きな特徴である黒一色の背景に単純化された構図のセットが採用された理由は定かではありません。しかし、このセットは、後の表現主義映画に影響を与えたとも言われています。

キャスト

チャーリー：チャールズ・チャップリン
チャーリーの妻：エドナ・パーヴァイアンス
ドイツ皇帝：シドニー・チャップリン
チャーリーの友人：アルバート・オースチン
イギリス人：ヘンリー・バーグマン
天使：ドロシー・ロッシャー（ジョアン・マーシュ）

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