公安軍 (コンゴ)

公安軍：コンゴ自由国の影

1885年、ベルギー国王レオポルド2世は、コンゴ自由国の支配を強化するため、私設軍である「公安軍（Force Publique）」を設立しました。警察機能も併せ持つこの軍隊は、白人将校による指揮下、コンゴ人を中心とする兵士から構成されていました。設立当初から廃止まで、ベルギー正規軍出身者やその他の欧州出身の白人将校が指揮を執り、アフリカ人兵士が戦闘に従事する構造でした。一部のアフリカ人兵士は昇進する機会もありましたが、これは例外的なケースでした。

残虐な弾圧とゴム・象牙の略奪

公安軍は、建前上は「コンゴ自由国を守り、アラブ人の奴隷交易者を倒すこと」を目的としていました。しかし、その実態は、コンゴ住民に対する残虐な弾圧と、ゴムや象牙の略奪でした。レオポルド2世は、アラブ系奴隷交易者から奴隷を「解放」の名目で買い取り、公安軍での労働を強制していました。カトリック教会も、兵士の養成に深く関与しており、奴隷制に近い状況を作り出していました。

コンゴ住民への弾圧は、想像を絶するものでした。彼らは「ファンボ」と呼ばれる鞭で痛めつけられ、ゴムや象牙の採取を強要されました。全てのコンゴ人が50～100回の鞭打ちを受け、死者も出るほどでした。女性は人質に取られ、暴行を受けることもありました。村々が焼き払われ、弾薬費用の証明として死者の手を使われるなど、非人道的な行為が繰り返されました。

一見、アラブ人奴隷交易者との戦闘も任務に含まれていましたが、これは限定的なものでした。1892年から1894年には、フランシス・ダニス率いる部隊が上コンゴでアラブ・スワヒリ人奴隷交易者と戦闘を行い、1895年にはテテラ族の蜂起を鎮圧、1897年にはラド飛地を占領するなど、軍事行動も展開されました。しかし、これらの軍事行動は、本質的にはコンゴ住民への支配を強固にするための手段でした。

国際的な非難の高まりを受け、コンゴ自由国は1908年にベルギー領コンゴとなりました。しかし、公安軍の残虐行為は、この体制転換後も続きました。

ベルギー領コンゴ時代とその後

ベルギー領コンゴ時代、公安軍は21の中隊に再編され、兵力は12,100人に増えました。しかし、軍事的能力は依然として低く、植民地支配のための抑圧組織としての性格が強まりました。訓練キャンプが設置され、ヨーロッパ人将校の配置も強化されましたが、兵士たちの待遇は依然として劣悪でした。

第一次世界大戦、第二次世界大戦においても、公安軍はベルギー軍の一員として、東アフリカ戦線や中東方面に参戦しました。評判の悪かった鞭による虐待は1955年に廃止されましたが、これはコンゴ独立に向けた国際的な圧力によるものでした。1959年には憲兵隊が公安軍から独立しました。

1960年、コンゴ民主共和国（当時コンゴ共和国）の独立を迎え、公安軍はコンゴ国民軍に再編されました。しかし、白人将校の除隊により、深刻な将校不足に陥りました。独立からわずか5日後の1960年7月5日、ベルギー人将校の発言がきっかけとなり、コンゴ動乱が勃発しました。これは、公安軍の構造的な問題と植民地支配の負の遺産が凝縮された出来事でした。

公安軍は、コンゴの歴史において、植民地支配の象徴であり、その残虐行為は、アフリカにおけるベルギー植民地主義の暗部を象徴する存在です。現在でも、その歴史的影響はコンゴ社会に深く刻まれています。

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