公開状

公開状

特定の個人や組織に向けられながらも、広く一般に公開される書状を指します。新聞や雑誌といったメディアを通じて公にすることで、多くの人々に読まれ、世論を喚起することを目的としています。主に、特定の相手を問い詰めたり、その行動や意見に対する批判や意見を公に求めたりするために用いられます。日本語では「公開書簡」と訳されたり、「オープンレター」とカタカナ表記されることもあります。特に、相手への問いかけや質問が中心である場合は「公開質問状」と呼ばれることもあります。

歴史

公開状が広く用いられるようになったのは、新聞の普及が進んだ18世紀後半以降のことです。歴史家であるカトリーナ・ナビカス氏（ハートフォードシャー大学教授）は、新聞の購読者だけでなく、より広い層に向けてメッセージを発信する戦術として、この時期から公開状が一般的になったと指摘しています。中でも、労働運動家のリチャード・オストラーが発表し、1833年の工場法制定にも影響を与えたとされる「ヨークシャー奴隷制」に関する公開状は、特に大きな影響力を持った例として知られています。また、個人の発信として歴史に名を刻んだものもあります。

フランスの作家エミール・ゾラがドレフュス事件に関して発表した「J'Accuse...!」（私は弾劾する）は、その影響力の大きさから後に英語の辞書にも収録されるほどでした。
アメリカの公民権運動指導者マーティン・ルーサー・キング・ジュニアが、投獄中に書いたバーミングハム刑務所からの手紙も、その中の有名な一節「injustice anywhere is a threat to justice everywhere」（いかなる場所での不正も、あらゆる場所の正義に対する脅威である）とともに、強力な公開状として語り継がれています。

これらの例は、時代を超えて公開状が社会的な議論や変革を促す上で果たしてきた役割を示しています。

動機

特定の相手に直接書簡を送るのではなく、あえて新聞などの公共のメディアを通じて公開状の形式をとる背景には、複数の動機があります。最も直接的な目的は、宛先となっている個人や団体に対する批判を広く世間に訴えかけ、世論を味方につけることです。書き手は、自らの立場や相手に対する批判的な見解を広く知らしめることで、社会的な関心を喚起し、宛先に圧力をかけようとします。また、公開することで、宛先側が意図的に応答しない、いわゆる「だんまり」を決め込むことを困難にする狙いもあります。公にされた問いかけや批判に対して無回答を貫けば、それ自体が批判の対象となりうるため、公開状を発した側にとっては、相手に応答を迫る、あるいは応答しなかった場合にさらに追及するというメリットが生まれます。個人に向けられた公開状の場合、その影響は本人に留まらず、その所属する組織に対しても、問題とされた事柄についての反省や、場合によっては社会的な責任追及を促す効果を持つこともあります。

影響力

現代においてはソーシャルメディアが瞬時に情報を拡散する強力なツールとなっていますが、歴史家の中には、新聞のような従来のメディアに掲載される公開状が、依然として独自の、あるいはそれ以上の影響力を持ちうると指摘する声もあります。歴史家のキース・フレット氏は、ソーシャルメディアの影響力を認めつつも、新聞の持つ権威性や幅広い読者層へのリーチが、公開状のメッセージを社会により深く浸透させる力を持つ場合があると考えています。

もう一度検索