バーミングハム刑務所からの手紙

『バーミングハム刑務所からの手紙』は、1963年4月16日にマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師によって書かれた公開書簡です。この手紙は、人種差別と人種隔離に反対する運動の中で、公民権運動の活動家たちが直面した批判に対するキング牧師の返答として書かれました。この手紙は、単なる応答にとどまらず、公民権運動の哲学、戦術、そして目標を力強く擁護する重要な文書として、今日まで読み継がれています。

背景

1963年、アメリカ南部では人種差別と人種隔離が依然として根強く残っていました。特にアラバマ州バーミングハムは、人種差別が最も激しい都市の一つでした。同年4月3日、キング牧師が率いる南部キリスト教指導者会議（SCLC）と人権擁護のためのアラバマ・キリスト教運動（ACMHR）は、バーミングハムで人種差別に対するデモ行進と座り込み運動を開始しました。しかし、裁判所はこれらの活動を禁止する命令を出しました。キング牧師らは裁判所命令を無視してデモを続け、逮捕されました。

キング牧師がバーミングハム刑務所に投獄されていたとき、地元の白人聖職者8名が、キング牧師とその運動を批判する声明を発表しました。この声明に刺激を受けたキング牧師は、刑務所の中で、この声明に対する返答として手紙を書き始めました。彼はまず新聞の余白に書き、その後、支援者から提供された紙切れに書き続け、最終的に弁護士が差し入れたレターパッドにまとめました。

内容

全体の概要

キング牧師の手紙は、『団結を求める声』という声明で批判した聖職者たちへの返答として書かれました。聖職者たちは、社会的不公正の存在には同意したものの、人種隔離に対する戦いは、街頭ではなく法廷で行われるべきだと主張しました。キング牧師は、これに対し、宗教的、法的、政治的な根拠に基づき反論しました。彼は、人種差別は不正義であり、不正な法律に従う道徳的義務はないと主張しました。また、活動家たちが「アウトサイダー」と呼ばれることに対して、「どこであれ不正は、どこであれ正義に対する脅威である」と反論しました。

アウトサイダー批判への反論

キング牧師はまず、自身を「アウトサイダー」と批判することに反論しました。彼は、SCLCの指導者として、バーミングハムの不正義に対して責任を感じていると述べました。そして、すべての人々は互いにつながっており、一人の不正義はすべての人々に影響を与えるという信念を表明しました。「どこであれ不正義は、どこであれ正義に対する脅威である」という有名な言葉は、この手紙の中で述べられています。

公民権運動批判への反論

キング牧師は、座り込みやデモのような直接行動は、社会に緊張をもたらすという批判に対し、建設的な緊張は必要であると主張しました。彼は、白人の権力構造との交渉のためには、そのような緊張を生み出す必要があると述べました。また、公民権運動の活動家たちが「待て」という言葉を何度も聞かされてきた歴史を振り返り、自由は抑圧者から自発的に与えられるものではなく、要求する必要があることを強調しました。

「デモは違法」批判への反論

キング牧師は、デモが違法であるという主張に対し、不正な法律に従う道徳的義務はないと主張しました。彼は、正義の法律には従うべきだが、不正な法律には従う必要はないと述べました。彼は、アウグスティヌスやトマス・アクィナスの言葉を引用し、不正な法律は法律ではないと主張しました。また、市民的不服従は、不正な法律に対する最高の敬意を表す行為であると述べました。

「公民権運動が過激」批判への異議

キング牧師は、公民権運動が過激であるという非難に対して、まずレッテルに異議を唱えました。彼は、自分自身を穏健派と見なしていたが、状況によっては過激になることも必要であると述べました。彼は、イエスや他の偉大な改革者たちも過激派であったと指摘し、問題は過激派になるかどうかではなく、どのような過激派になるかだと主張しました。キング牧師は、白人穏健派の理解不足や、黒人社会の無関心や憎しみに対し、強い失望を表明しました。

書簡の結び

キング牧師は、バーミングハム警察が非暴力的に秩序を維持していることを賞賛することに対して批判しました。彼は、不道徳な目的を維持するために道徳的な手段を用いることも間違っていると述べました。また、バーミングハムの非暴力デモ隊の勇気と規律を賞賛し、南部はいつの日か彼らを真の英雄として認識するだろうと述べました。

出版物

キング牧師は手紙を書き終えると、弁護士に託しました。その後、運動本部で編集され、様々な媒体で発表されました。ニューヨーク・タイムズ・マガジンは掲載を見送りましたが、ニューヨーク・ポスト日曜版に抜粋が掲載されました。その後、『リベレーション』、『クリスチャン・センチュリー』、『ニュー・リーダー』などの雑誌に全文が掲載され、広く読まれるようになりました。キング牧師は1964年に著書『Why We Can't Wait』にこの手紙の全文を収録しました。この手紙は、公民権運動の重要なテキストとして、多くの教育機関で使用されています。

影響

『バーミングハム刑務所からの手紙』は、公民権運動の理念を明確に示した重要な文書です。キング牧師の力強い言葉は、人種差別の不正義に対する人々の意識を高め、公民権運動を大きく前進させる力となりました。また、この手紙は、市民的不服従の正当性を主張する古典的な文書として、今日まで世界中の人々に影響を与え続けています。

脚注

注釈

出典

参考文献

関連文献

外部リンク

書簡本文（HTML形式） - ペンシルベニア大学

書簡本文（PDF形式） - スタンフォード大学

バーミングハム刑務所からの手紙の朗読 - カーワン人種と民族性研究所

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