六斎念仏

六斎念仏とは

六斎念仏は、古くは六斎日に行われた念仏に起源を持つとされる民俗芸能です。しかし、今日では盂蘭盆や葬送の際に執り行われることが多く、地域ごとに異なる形態で伝承されています。その多様性から、「大念仏」「四遍念仏」「太鼓念仏」など、様々な名称で呼ばれることもあります。

全国各地の六斎念仏

六斎念仏は、関西地方を中心に全国各地に分布しています。特に知られているのは、国の重要無形民俗文化財に指定されている「京都の六斎念仏」でしょう。その他にも、和歌山県紀北地方、奈良県吉野川流域、滋賀県、福井県若狭地方、大阪府、兵庫県など、広範囲に伝承されています。さらに、長崎県平戸島、高知県、愛知県、山梨県などにも分布が確認されています。千葉県の六座念仏や山形県の夜行念仏も、六斎念仏との関連が指摘されています。

形態の多様性

六斎念仏は、地域によってその形態が大きく異なります。念仏の詠唱のみの形式から、和讃、太鼓曲、獅子舞、その他の芸能を取り入れたものまで、実に多様です。多くは男性によって行われ、盂蘭盆の行事として執行されることが多いですが、その伝承や芸態は地域ごとに異なり、共通性を持ちつつも、それぞれの土地で独自の発展を遂げています。

紀北の六斎念仏

紀北地方では、高野山麓を中心に六斎念仏が濃密に分布しています。「高野山系」として類型化され、高野山との深い関わりの中で、独自の信仰形態が育まれました。この地域では、念仏に独自の旋律を付した唄念仏が特徴的で、融通念仏の原形を留めていると言われています。特に「バンドウ」と呼ばれる旋律には、融通念仏のリフレインが確認され、宗教民俗学者の五来重によって重視されてきました。高野山真言宗の檀家が中心となり、光明真言曼荼羅や弘法大師の掛け軸を掲げることもあります。日高地域では和讃を主体とした曲が伝承され、地域によって異なる形態が見られます。

奈良県下の六斎念仏

奈良県では、吉野川流域と奈良盆地周辺に六斎念仏が分布しています。吉野川流域では、紀北の六斎念仏と同様の形態を保ちつつ、世俗的な旋律や技巧的な鉦の叩き方が特徴です。奈良盆地では、和讃を中心とする独自の六斎念仏が発展しており、融通念仏宗の檀徒によって講が構成されていることが多いです。また、太鼓を用いた六斎念仏も存在し、多様な形態が見られます。

摂津の六斎念仏

兵庫県神戸市から大阪府北部にかけての摂津地域では、「ひっつんつん」や「すっとんとん」といった擬音を伴う太鼓を主体とした六斎念仏が特徴的です。戦国時代には京都とのつながりが深く、組織的な活動が行われていましたが、近世以降、天王寺村の西方寺が中心となり、独自の発展を遂げました。現在では、送葬に関わる人たちによる六斎念仏講も残っており、死者供養の役割を担っています。

湖西の六斎念仏

滋賀県大津市から高島市にかけての湖西地域では、太鼓曲や狂言を交えた六斎念仏が存在し、若狭地方や京都の干菜寺系の影響が見られます。大津市では干菜寺系の特色を色濃く残す六斎念仏が、高島市では曹洞宗の檀徒が中心となる六斎念仏が伝承されています。

若狭の六斎念仏

若狭地方は、現在最も六斎念仏が分布している地域であり、その多様性が特徴です。「シヘン」「ハクマイ」などの念仏曲から、太鼓念仏、芸能的な色彩の強いものまで、様々な演目が伝承されています。京都干菜寺との関係が指摘されており、現在では曹洞宗の檀徒によって構成されることが多いです。その歴史的・文化的価値から、日本遺産にも認定されています。

京都の六斎念仏

京都周辺では、特に芸能化が進んだ「芸能六斎」と呼ばれる形態が発展しました。これは笛などの楽器を取り入れ、念仏から離れた娯楽性の強い曲目を演奏するもので、従来の「念仏六斎」と区別されます。六斎念仏を始める際には、干菜寺か空也堂のいずれかの寺院から免許を受ける必要があり、どちらから免許を受けたかによって系統が分類されることもあります。近年では、小学生を中心に六斎念仏の体験教室を行うなど、継承活動も活発に行われています。

重要無形民俗文化財

京都市内では、15件の保存会と、それらを統括する京都六斎念仏保存団体連合会が、重要無形民俗文化財の指定を受けています。そのうち、西方寺、円覚寺、六波羅蜜寺を除く全てが芸能六斎を伝承しています。

山梨県下の六斎念仏

山梨県では、富士山麓周辺に六斎念仏が点在しており、かつてはまとまって分布していました。江戸時代には京都の干菜寺による支配が行われ、呪術的な要素が色濃く残っているのが特徴です。

現代の継承活動

多くの地域で、六斎念仏を継承するための様々な取り組みが行われています。保存会を中心に、地域住民が積極的に参加し、伝統を守り続けています。奈良県御所市では、オンラインでの練習も行われるなど、新たな継承方法も模索されています。

参考文献

六斎念仏に関する研究は多岐にわたり、多くの文献が存在します。民俗学、宗教史、芸能史など、様々な分野から研究が行われ、六斎念仏の多様な側面が明らかにされています。