六本木族

六本木族（ろっぽんぎぞく）とは、かつて日本に存在した若者たちの集団を指す言葉です。その名称は、彼らが主な活動拠点とした東京都港区六本木に由来しています。この六本木族は、その後の時代に出現する「みゆき族」や「原宿族」といった、特定の街に集まる若者たちの集団、いわゆる「街族」の先駆け、元祖と位置づけられています。

六本木族が誕生した背景には、当時の六本木の社会的、文化的な変化がありました。六本木は1958年に米軍による接収が解除され、翌1959年には日本教育テレビ（現在のテレビ朝日）が開局するなど、戦後復興と共に新たな変貌を遂げつつありました。こうした変化の中、テレビ関係者や芸能人といった華やかな世界の人々に憧れる若者たちが、この街に集まるようになります。華やかではあるが遊びに多額の費用がかかる銀座とは異なり、六本木は比較的費用をかけずに文化的な交流や新しい体験ができる場として、若者たちを引きつけました。深夜までこの街に留まる若者が増加し、彼らは自然発生的に「六本木族」と呼ばれるようになったのです。

六本木族は、発生時期や構成メンバーの属性によって二つの時期に分けられます。第一次六本木族は、主に1958年から1960年頃に活動していた層を指します。この時期の六本木族のメンバーは、そのほとんどが裕福な家庭の子女であったとされています。必ずしも規範的な行動をとっていたわけではないとされつつも、当時の非行少年少女とは一線を画す、ある種の育ちの良さがあると見なされていました。作家の野坂昭如は、第一次六本木族の多くが慶應義塾の生徒であり、その父親は大企業の社長クラスや大臣といった社会的地位の高い人物であったと述べています。彼らは月に30万円ほどの小遣いを使い、中には6台もの車を所有する少年もいたという具体的な証言が残されています。

一方、1960年以降に現れた第二次六本木族は、第一次六本木族とは異なり、主に中流家庭の子弟で構成されていました。彼らは第一次六本木族のスタイルや雰囲気を模倣した、いわば亜流的な存在であったと考えられています。

六本木族を特徴づける共通の要素としては、音楽が挙げられます。彼らは「ドドンパ」という音楽によって緩やかに結びついていました。1961年に『東京ドドンパ娘』が大ヒットし、ドドンパブームが巻き起こりますが、興味深いことに、六本木ではそれより3年も前からドドンパが踊られていました。つまり、『東京ドドンパ娘』のヒットは、六本木族の間ですでに流行していた音楽を追随したものであったと言えます。

他の有名な「街族」、例えば「みゆき族」などには特定のファッションスタイルがありましたが、六本木族にはこのような共通のファッションが存在しなかったのは珍しいケースでした。

また、「六本木野獣会」というグループとの関係も言及されることがあります。これは、当時の芸能プロダクションの社長が、六本木族の話題性に着目し、若手スターのプロモーションのためにプロデュースしたグループで、本来は地名を含まない「野獣会」という名称でした。六本木族と六本木野獣会は別の存在でしたが、一般には混同されることがあり、六本木族であった人物が六本木野獣会について尋ねられるといったこともあったようです。

六本木族が六本木に集まった主な目的の一つは、新たな人との出会いを求めることでした。当時の六本木には多くの飲食店があり、そこには著名な文化人や知識人が頻繁に集まっていました。六本木族の若者たちは、そうした場で、たとえ初対面で何の地位も持たないような立場であっても、文化人と対等に会話を楽しむ機会を得ることができたのです。これは、近年の飲食店が個室を設けたり、他の客から見えないように区切られたりしているため、かつて六本木族が求めたような、偶発的な出会いや開かれた交流が生まれにくい状況とは対照的です。

このように、六本木族は、戦後日本の復興期において、特定の街を舞台に発生し、文化的な交流や新しい体験、そして人間関係の広がりを求めた若者たちの、独自の集団であったと言えるでしょう。

もう一度検索