共同交戦能力

共同交戦能力（CEC）

共同交戦能力（Cooperative Engagement Capability; CEC）は、ネットワーク中心戦（NCW）のコンセプトに基づき、アメリカ海軍が策定した戦闘構想です。これは、艦隊全体で脅威に対して共同で対処し、交戦する能力を付与することを目的としています。

概要

CECは、射撃指揮に使用できる精度の情報をリアルタイムで共有することにより、艦隊全体での共同対処を可能にします。このためには、従来の戦術データ・リンクよりもはるかに高速なデータ・リンクと、それを運用できる高性能な戦術情報処理装置が不可欠です。

従来のC4Iシステムは、戦略級・作戦級（COP生成）、戦術級（CTP生成）の3つのレベルで進化してきました。CECを備えたC4Iシステムでは、従来の戦術級システムよりもさらに応答時間の短縮が求められ、アメリカ海軍ではこれを「武器管制」の精度と表現しています。これによって作成される共通状況図は、単一統合航空状況図（Single Integrated Air Picture: SIAP）と呼ばれます。

来歴

CECの原型は、1960年代からアメリカ海軍で運用されていた海軍戦術情報システム（NTDS）です。NTDSは、各艦の戦闘情報センターを戦術データ・リンクで結び、艦隊全体で情報を共有して脅威に対処するものでした。しかし、当時の戦術データ・リンクの通信速度や容量、戦術情報処理装置の性能的な限界から、やり取りされる情報はあくまで「Tracking」の精度にとどまり、射撃に直接使用できるものではありませんでした。

CECの直接的な原点は、ウェイン・E・マイヤーによって提唱されたコマンド・センターコンセプトです。これは、イージスシステム搭載ミサイル巡洋艦の開発において見出されたもので、他艦から送信されたデータを元にイージス艦が交戦し、また他艦の交戦を管制するというものです。しかし、1970年代後半には、リアルタイム性に欠ける戦術データ・リンクしかなく、新世代のリンク 16も登場していなかったため、直ちに実用化は困難でした。

その後、技術の成熟とともにリアルタイムの高速データ・リンクが実現可能となり、1985年からコンセプト開発が開始されました。1988年にはEシステムズ社がデータ・リンクの開発を受注し、1990年8月にはレイテ・ガルフ (CG-55) とサン・ジャシント (CG-56) に機材を搭載して実験が行われました。1994年からは、実弾を使用した遠隔データによる交戦試験が行われ、陸軍のパトリオット地対空ミサイル部隊や空軍の防空管制センターとの協同にも成功しました。1995年の試験では、ワロップ島の実験施設から発射されたロケットをアイゼンハワーCVBGが追尾し、探知後5秒以内に発射地点の算出に成功しました。これは、ミサイルを発射した移動発射台に対して、射撃位置転換以前に攻撃を加えることができる可能性を示唆しています。

1998年にアーサー・セブロウスキー提督がNCWコンセプトを提唱し、アメリカ全軍で採択されたことで、CECの重要性は一層高まりました。従来の軍事システムをプラットフォーム中心戦（PCW）に拘泥させていた要因の一つが、プラットフォーム間で共有される情報の精度にあったため、CECによる射撃管制精度の情報共有は、NCWコンセプトの導入を促進し、個々の兵器の性能向上に依存せずとも戦力を大幅に増大させることが可能になると認識されたのです。

構成

CECを実現するシステムは、CETPS（Cooperative Engagement Transmission Processing Set）と総称され、艦艇搭載のものはAN/USG-2/2A/2B、航空機搭載のものはAN/USG-3/3B、海兵隊が装備する複合追跡ネットワークはAN/USG-4Bと呼ばれます。また、オーストラリア海軍艦艇搭載のものはAN/USG-7B、海上自衛隊艦艇搭載のものはAN/USG-10Bと称されます。

CETPSは、情報処理・通信端末としてのCEP（Cooperative Engagement Processor）と、高速・リアルタイムのデータ・リンク・ネットワークであるDDS（Data Distribution System）を主要なサブシステムとして構成されます。CEPとDDSのほかに、情報の配布、指揮・情勢表示支援、センサー協同、交戦意思決定、交戦遂行を支援する5つのサブシステムが含まれます。

DDS

DDSは、CECに不可欠な高速・大容量のリアルタイム・データ・リンクです。CEC導入以前、アメリカ軍は、部隊運用統制用のノン・リアルタイム通信システムGCCS-Mと、火力統制用の「リアルタイム」通信システムである戦術データ・リンク（リンク 11、リンク 16）を運用していました。しかし、より高速なリンク 16でも情報更新は秒単位であり、射撃諸元を直接伝達できるものではありませんでした。そこで、サブ秒単位で情報更新が可能で、射撃指揮に直接使用できる精度の情報をやり取りできる超高速・大容量のデータ・リンクとしてDDSが開発されました。

DDSは、耐妨害性と通信容量の観点からCバンドの電波を使用します。この周波数の特性上、DDSは見通し線（LOS）内でしか使用できません。一方、DDSで扱われる情報は「Targettingの精度」であるため、DDSを通じて受信した目標に対しては、自艦装備のセンサーで再探知せずに攻撃を加えることができます。つまり、火力の投射を担当する艦が無線封鎖の状態であったり、地形上の問題で目標を探知できなくても攻撃が可能になるのです。

DDSのアンテナは、当初リンク16/TADIL Jに似た円筒形でしたが、後に4枚の長方形アンテナを配したPAAA（Planer Array Antenna Assembly）に換装されました。

CEP

CEPは、DDSによって受信したデータを分析し、自艦装備のセンサーからの情報とともに融合する情報処理システムです。各航空機や艦船がレーダーやソナーなどで得た観測データは、DDSによって互いに連絡され、CEPによって融合されることで、それぞれ単独では得られない広範囲のレーダー覆域と高い位置精度が獲得できます。CEPは、イージスシステムのC&DシステムやACDSなどの戦術情報処理装置と連接され、他艦探知の目標に対する攻撃を可能にします。

他システムとの連携

CECは、リアルタイム性が極めて高いため、海軍のC4Iシステムとしては最も狭い地理範囲で運用されます。従来の「リアルタイム」情報システムである戦術データ・リンクも、CECよりやや広い範囲での艦隊運用に使用するものとして整備が継続されます。リンク 11は通信容量が小さいものの、リンク 16はUHF帯のみで通信可能範囲が限られるため、HF帯での通信を可能にしたリンク 22が開発されています。これらのデータ・リンクは、広範囲な艦船や航空機、陸上とも情報共有が可能なIT-21統合データ・ネットワーク（Joint Data Network; JDN）として統合されます。

さらに、戦術データ・リンクよりもリアルタイム性は劣るものの、広域での兵力運用に使用されるC4Iシステムとして、GCCS-Mが整備されています。これはJOTSを発展させたもので、戦略・政治レベルで使用されるGCCSとの連接に対応しています。

これらの情報システムは相互に連携し、航空、宇宙、陸上、国家最高指揮レベルまでも内包する遠征軍センサー・グリッド（Expeditionary Sensor Grid; ESG）へと拡大することが計画されています。

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