共同被告同志に告ぐる書

共同被告同志に告ぐる書について

1933年6月10日、日本共産党の幹部である佐野学と鍋山貞親が発表した「共同被告同志に告ぐる書」は、彼らが左翼労働運動においてどのような方針転換を決意したかを示す重要な文書です。この声明は、通称「佐野・鍋山転向声明」としても知られています。

背景

1929年、日本共産党は党に対する弾圧を受け、佐野と鍋山は治安維持法違反で逮捕されました。彼らは獄中で他の党幹部と共に「獄中中央委員会」を結成し、党の再建や戦争危機への対処を目指しました。しかし、1932年10月に下された第一審では両者ともに無期懲役の判決を受けることとなりました。

このような状況の中、佐野が鍋山に重要な提案を持ちかけたのは翌1933年の1月末でした。彼らはこれまでの君主制廃止のスローガンが、日本における左翼労働運動の発展を妨げているのではないかと考えるようになります。特に、当時のコミンテルンの方針が日本共産党の活動に影響を与え、革命的な取り組みが後ろ向きになっていることに不満を抱いていました。彼らは日本の独自の状況を考慮し、コミンテルンの影響から脱却し、日本特有の革命を推進する決意を固めました。

声明の内容

この経緯をふまえ、佐野と鍋山は議論の結果、「日本独自の汎アジア社会主義革命を達成し、世界の社会主義革命につなげる」という考えに辿りつきました。1933年6月10日、彼らはこの議論を「共同被告同志に告ぐる書」として公表しました。この文書では、日本民族が持つ歴史的な独立性や、国民的な強固さについて言及し、労働階級が社会主義の道を独自に切り開く可能性について述べられています。

この声明の影響力は大きく、発表から一ヶ月もしないうちに、多くの幹部が転向を表明しました。例えば、高橋貞樹や三田村四郎、さらには風間丈吉や田中清玄などが次々と彼らの方針に同調したのです。一方で、徳田球一や国領伍一郎などの幹部は、佐野と鍋山の転向に対して明確に反対する意見を表明し、裁判の分離を求めるなど、内部での対立も生じていました。

より広い意味での影響

この声明は、当時の労働運動や社会主義での考え方に大きな影響を与えることとなり、今後の日本共産党の方針や活動に関する議論を呼び起こすことになりました。転向した幹部たちは、後に戦前の対米英開戦を支持し、戦後には日教組や日本社会党を結成するなど、日本の政治史においても重要な役割を果たすことになります。

彼らが転向した理由の一つとして、コミンテルンの政策が急激に変わり、各国の共産党に厳しい戦争回避を求めるようになった影響が挙げられます。この点は、声明においても触れられ、日本共産党が持つ独自性を大切にする必要性が強調されました。

結論

「共同被告同志に告ぐる書」は、佐野学と鍋山貞親が新たな方向性を求めた重要な声明であり、日本共産党の歴史的な転換点となりました。また、それに続く多くの幹部の転向は、戦後の政治動向にも大きな影響を与えることとなります。

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