共同運輸会社

共同運輸会社

共同運輸会社は、1882年7月に設立された半官半民の海運会社であり、日本郵船の前身として知られています。設立の背景には、当時の海運業界における三菱の独占的な地位がありました。

設立の経緯

当時、三菱の海運事業である「郵便汽船三菱会社」は、大規模な値下げ攻勢によって勢力を拡大していました。これは、欧米系の船会社から日本の航海自主権を取り戻すという功績があった一方で、国内の中小船会社を駆逐するという側面も持っていました。独占的な地位を得た三菱は、高額な運賃で大きな利益を上げており、その状況を快く思わない人々が存在しました。

渋沢栄一、井上馨、品川弥二郎、益田孝、榎本武揚、浅野総一郎らは、三菱に対抗できる新たな海運会社の設立を画策しました。彼らは反三菱財閥勢力として結集し、以下の3社が合併することで、1882年10月に共同運輸会社が発足しました。

東京風帆船会社: 三井家、渋沢栄一、益田孝らが中心となり1880年に創業
北海道運輸会社: 宮路助三郎と小林重吉が役員を務め、東京風帆船会社の設立発起人でもあった
越中風帆船会社: 藤井能三を中心に設立。三菱の画策によって設立されたという説もある

共同運輸会社は、有事の際の軍事輸送を引き受けることを条件に政府の出資を得ており、初代社長には伊藤雋吉海軍少将が就任するなど、政府との関係も密接でした。取締役には益田孝や渋沢栄一が名を連ね、副社長には東京風帆船会社元社長の遠武秀行が就任しました。また、ロバート・W・アーウィンが外国人支配人となり、ハワイ国総領事代理も兼任していた彼の邸宅が会社として使用されました。

三菱との激しい競争

1883年1月に営業を開始すると、三菱は運賃を2割引にして対抗しました。これに対し、共同運輸も対抗値引きを実施し、2年間にわたるダンピング競争が繰り広げられました。共同運輸はイギリス製の新鋭船を導入するなど、船舶の性能では優位に立っていましたが、三菱も燃料費を度外視して速度を上げるなど、激しい競争が続きました。ついには、両社は出航時間を揃えて同時出航し、優劣を競い合うようになり、接触事故を起こすなど安全面でも問題が生じるようになりました。

合併、そして日本郵船へ

共同運輸と三菱は、激しい競争によって双方とも疲弊し始めました。この状況を憂慮した西郷従道農商務卿が仲介に乗り出し、両社に協定を結ばせましたが、協定はすぐに破られ、事態は悪化の一途を辿りました。

1885年、三菱の社長であった岩崎弥太郎が死去したことを契機に、政府が再び仲介に乗り出しました。共同運輸の社長を更迭し、農商務省官僚の森岡昌純を社長に就任させ、両社を合併させることで、1885年10月1日に日本郵船が成立しました。新会社の出資比率は共同運輸と三菱で6:5となり、社長には共同運輸側の森岡が就任するなど、発足当初は共同運輸の色が濃く残りました。しかし、その後は三菱系の社員が台頭し、共同運輸は名実ともに消滅することとなりました。

その後、三井物産の船舶部が独立して三井船舶となり、現在の商船三井となっています。

参考文献

『綱町三井倶楽部―J.コンドルの建築をめぐって』石田繁之介、中央公論美術出版 2001年

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