共通旅行区域

共通旅行区域：イギリスとアイルランドの自由な移動

共通旅行区域（Common Travel Area、CTA）は、イギリス、アイルランド、マン島、チャンネル諸島の4地域で構成される、国境管理が緩和された特異な領域です。法的協定に基づき、これらの地域間では最小限の入国審査しか行われず、イギリスとアイルランドの市民は、簡単な身分証明書があれば自由に移動できます。ただし、イギリスの海外領土はCTAに含まれません。

歴史：協定の変遷

1922年のアイルランド独立後、イギリスとアイルランドは、長大な国境線のパトロールを避けるため、1923年に非公式な合意を結びました。これは、アイルランドを事実上イギリスの一部とみなすことで、イギリスの入国管理法を適用するというものでした。この合意は、両国の移民政策が類似していたため、可能となりました。

第二次世界大戦中は、移動制限が設けられましたが、戦後、自由な移動は再開されました。しかし、イギリスはアイルランドとの「類似の移民政策」の合意を条件に、この再開に同意しました。

1952年には、両国の入国管理法に基づき、外国人は一方の国への入国を拒否された場合は他方への入国も拒否されるという合意がなされました。1962年にはイギリスで「イギリス連邦移民法」が制定されたことにより、アイルランドもそれに対応した入国管理法を制定する必要に迫られました。イギリス市民の定義の違いは、1999年まで解決されませんでした。

2008年には、CTA内のすべての空路と海路で出入国管理を強化する提案がなされましたが、北アイルランドを巡る議論から撤回されました。2011年には、両政府がCTAの維持に関して初めて公式な合意に達しましたが、法的拘束力はありませんでした。

イギリスのEU離脱（2016年）は、アイルランド島におけるアイルランドとイギリスの国境をEUの外部国境とする可能性を提起しました。しかし、両政府は厳格な国境管理を回避することで合意し、2019年には、EU離脱後も両国国民の権利が保護される覚書に署名しました。2021年には、イギリスはEU市民の自由な移動を終了する一方、アイルランド市民には例外を設ける移民法案を導入しました。

入国審査：各地域の状況

チャンネル諸島では、CTA外からの旅行者に対してのみ入国審査が行われます。アイルランドでは、1997年の入国管理法改正により、空路と海路で入国した旅行者に対して身分証明書の提示が義務付けられました。しかし、陸上国境では選択的な管理が行われています。イギリスでは、CTA内の場所からの旅行者に対しては定期的な入国審査は行われていません。

ビザ制度：共通ビザと国ごとの差異

2014年には、英国とアイルランドで共通のビザを使用できる相互承認ビザ制度が開始されましたが、2018年現在、中国とインドのみに適用されています。英国とアイルランドでは、入国要件が異なるため、一般的に英国のビザはアイルランドへの入国には使えず、その逆も同様です。チャンネル諸島とマン島では、一部の例外を除き、英国のビザを保有する者の入国を許可しています。

移動の自由と在留資格

イギリスとアイルランドの国民は、EU法の下でお互いの国に住む権利を有していましたが、英国のEU離脱後も、この権利は継続されています。第三国の市民の入国については、入国地点によってイギリス人またはアイルランド人の入国審査官によって管理されています。

アイルランドの法律では、全ての英国市民は入国管理を免除され、アイルランドに住む権利があります。同様に、アイルランド市民もイギリスに移住する際に、外国人として扱われることはありません。

シェンゲン協定との比較

シェンゲン協定は、EU加盟国間の国境管理を段階的に廃止する協定ですが、イギリスとアイルランドはシェンゲン協定に加盟していません。シェンゲン協定の目的は、労働者の自由な移動を容易にすることですが、CTAの目的はそれとは異なります。

まとめ

CTAは、歴史的、政治的な背景を持つ特異な領域です。国境管理の緩和と自由な移動は、両国間の協力関係に基づいて維持されており、今後の変化も注視していく必要があります。イギリスのEU離脱後も、CTAの枠組みは維持される見通しですが、詳細な運用方法は依然として協議中であり、今後も変化していく可能性があります。

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