シェンゲン協定

シェンゲン協定：ヨーロッパの自由な移動と国境管理の狭間

シェンゲン協定は、ヨーロッパ諸国間の国境を越える際に、パスポートなどの提示を不要とする協定です。1985年、ルクセンブルクで5ヶ国（ベルギー、フランス、ルクセンブルク、オランダ、西ドイツ）によって署名され、その後、多くの国が参加、拡大を続けました。現在では、EU加盟国を中心に29ヶ国が加盟し、広大なシェンゲン圏を形成しています。

シェンゲン協定の歴史と経緯

シェンゲン協定の起源は、第一次世界大戦以前まで遡ります。当時は国境検査が必ずしも体系的に行われていたわけではなく、国境を越える際の自由度が高かったと言われています。しかし、戦争を経て国境管理の重要性が増し、パスポート検査が一般的となりました。

第二次世界大戦後、ベネルクス三国（ベルギー、オランダ、ルクセンブルク）は1944年に国境検査撤廃協定に署名、1948年に発効させました。また、1952年には北欧旅券同盟が結成され、北欧諸国間での自由な移動が実現しました。こうした歴史的背景を踏まえ、シェンゲン協定は、EU加盟国間での意見の一致が得られなかったことから、EU枠組みの外で成立しました。その後、アムステルダム条約によって、シェンゲン協定はEU法に組み込まれました。

シェンゲン圏の拡大と加盟国

シェンゲン圏は、2008年12月時点で25ヶ国に拡大し、4億人超の人口と430万平方キロメートルを超える面積を有していました。2024年3月現在、29ヶ国が加盟しています。EU加盟国以外にも、アイスランド、ノルウェー、スイスなどEU非加盟国も参加しています。一方、アイルランドやイギリスは、歴史的経緯やEU離脱などから、完全には参加していません。

シェンゲン協定の法的根拠とEUとの関係

当初、シェンゲン協定はEUの外で成立した協定でしたが、アムステルダム条約によってEU法に統合されました。これにより、シェンゲン協定の改廃は、EUの立法機関による決定で行われるようになり、加盟国ごとの批准手続きは不要となりました。EU加盟申請国は、シェンゲン協定の基準を満たすことが加盟条件の一つになっています。

シェンゲン協定関連の法令は、欧州議会の決定に基づき策定されます。その根拠は、EU基本条約に明記され、国境管理、亡命、移民政策などの分野にわたって規定されています。

シェンゲン協定の課題：テロリズムと感染症

シェンゲン協定によって、人々の自由な移動は促進されましたが、同時に、テロリストの移動を容易にする懸念も指摘されています。テロ対策として、国境警備機関の設置、情報システムの強化、出入国管理の厳格化などが行われています。さらに、2023年11月には、オンライン事前審査制度（ETIAS）の導入が予定されています。

新型コロナウイルス感染症の流行（COVID-19）においても、シェンゲン圏内の自由な移動は制限されました。各国が独自に国境管理を実施したことで、シェンゲン協定の原則が一時的に停止される事態となりました。

まとめ

シェンゲン協定は、ヨーロッパにおける自由な移動を実現した歴史的な協定です。しかし、テロリズムや感染症の流行など、グローバルな課題への対応が求められており、その未来は、自由と安全という相反する要素のバランスの上に成り立っています。今後も、シェンゲン協定の枠組みは、国際情勢の変化に合わせて柔軟な対応が求められるでしょう。

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