EU法

欧州連合法：包括的な近代法体系

欧州連合（EU）は、連邦国家でも政府間機構でもない、独自の法秩序を有する国際的な連合体です。EU法はその法秩序を支える体系であり、1951年のパリ条約（欧州石炭鉄鋼共同体設立）以来、段階的に発展を遂げてきました。2007年時点で、27加盟国、約5億人の市民がEU法の支配下にあり、世界で最も包括的な近代法体系の一つとして位置付けられています。

EU法の三本柱構造

EU法は、大きく分けて三つの柱構造で構成されています。

第一の柱：経済・社会分野 最も古く重要な柱で、経済・社会に関する権利やEU機関の設立根拠を規定しています。1957年のローマ条約（欧州経済共同体条約）に端を発し、その後何度も修正が加えられています。
第二の柱：共通外交・安全保障政策 1992年のマーストリヒト条約で導入されました。EUの外交・安全保障政策を規定します。
第三の柱：警察・刑事司法協力 マーストリヒト条約で導入され、当初は司法・内務協力と呼ばれていました。アムステルダム条約で一部が第一の柱に移管され、現在は警察・刑事司法協力に絞られています。

厳密には、「EC法」は第一の柱を、「EU法」は三柱全体を指す場合もあります。

EU法の発展過程

EU法の発展には、欧州議会、欧州連合理事会、欧州委員会の三者関係の変遷が大きく影響しています。

1970年代前半：予算権限の欧州議会への移管
1979年：欧州議会議員の直接選挙開始
1987年：単一欧州議定書による協力手続の導入
1993年：マーストリヒト条約による共同決定手続の導入、以降アムステルダム条約、ニース条約で範囲拡大

欧州司法裁判所もEU法の発展に重要な役割を果たしました。1963年のヴァン・ヘント・ロース社事件判決では、EUは限定的な分野において加盟国の主権を制限する、国際法上の新たな法秩序を形成するとされました。

EU法の形成には、補完性原理、比例性原理、授権原理、予防原理といった基本原則が重視されています。また、ケンブリッジ大学のキャサリン・バーナードなどによれば、域内市場における「4つの自由」（商品、サービス、資本、労働力の自由な移動）がEU法の基礎をなすとされています。

EU法と刑事法

2006年のコートジボワールにおける有害廃棄物流出事件を受け、EUは環境犯罪の創設を検討しました。欧州司法裁判所は、欧州委員会に刑事法制定権限があるとの判断を示し、超国家機関による刑事法制定という新たな地平が開かれました。

EU法の主要条約

EU法の根幹をなすのは、EU加盟国政府間の合意に基づく諸条約です。これらには、EUの基本政策、機関、立法手続、権限などが規定されています。代表的な条約として、ローマ条約、マーストリヒト条約、アムステルダム条約、ニース条約、リスボン条約などが挙げられます。2004年の欧州憲法条約は批准されませんでしたが、その内容はリスボン条約に引き継がれました。

EUの主要機関

欧州委員会：行政執行機関。法案作成、EU法調整、行政業務を担います。委員は加盟国から各1名。
欧州連合理事会（閣僚理事会）：欧州議会とともに立法機関。各国の閣僚で構成され、政策分野ごとに分かれてEU法を審議・制定します。
欧州議会：加盟国市民の直接選挙で選ばれる議員で構成される、EU唯一の直接民主主義機関。立法に携わります。
欧州司法裁判所：EU法の解釈・適用、EU法違反国への罰金科刑などを担います。
欧州中央銀行：ユーロ圏の金融政策を司ります。
* 欧州会計監査院：EU会計の監視機関。

その他、地域委員会、経済社会評議会などの諮問機関、欧州理事会（政府首脳会議）などがあります。

EU法の立法手続

EUの立法手続には、共同決定手続、同意手続、諮問手続などがあり、欧州議会の関与度合いに違いがあります。

EU法の優位性と直接的効力

EU法は、加盟国の国内法、時には憲法にも優先する力（優位性）を持ちます。これは欧州司法裁判所の判例で確立されています。また、EU法の条約や規則は直接的効力を持つため、市民はそれらの権利を行使し、義務を負うことができます。指令も直接的効力がありますが、垂直的効力であり、市民同士の訴訟には直接適用できません。

EU法の基本原則と4つの自由

EU法の基本原則として、補完性原理、比例性原理、授権原理、予防原理などが挙げられます。また、商品、労働者、資本、開業の4つの自由な移動が、EUの経済・社会政策の基礎となっています。

EUの競争法

EUの競争法は、共通市場（域内市場）の健全な競争を確保するため、カルテル（談合）、独占、合併・買収などを規制しています。これはアメリカの反トラスト法と類似したものです。

社会憲章

EUの社会憲章は、男女平等、労働時間制限などを規定しています。

結論

EU法は、複雑で多様な法体系ですが、EU統合の基盤であり、加盟国市民の権利と義務を規定する重要なものです。その発展の歴史と現状を理解することは、EUを理解する上で不可欠です。

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