兵藤裕己

兵藤裕己：声の文学史を拓く研究者

兵藤裕己氏(1950年生まれ)は、日本中世文学と芸能を専門とする第一人者であり、学習院大学名誉教授の地位に就いています。その研究活動は、単なる文献の解読にとどまらず、物語の語り口や芸能との関わりといった、より多角的な視点を取り入れることで知られています。特に、国民文化の形成に大きな影響を与えた『平家物語』を、語り物という側面から徹底的に分析し、その表現方法や社会的な影響を解き明かそうとする試みは、高く評価されています。

兵藤氏の研究の特徴は、近代文学まで視野を広げ、大胆な仮説を提示することにあります。『平家物語』の語り口に着目した研究を基盤に、日本の文学や芸能における「声」の役割を、歴史的・社会文化的文脈の中で深く掘り下げています。従来の文学研究の枠を超え、声を通して表現される主体性や、社会と個人の関係性といったテーマを探求することで、新しい文学史観の構築に貢献しています。

氏の経歴は、学究としての揺るぎない歩みを物語ります。京都大学文学部国文科卒業後、東京大学大学院で研鑽を積み、埼玉大学を経て成城大学、そして学習院大学教授に就任しました。その間、早稲田大学でも教鞭を執るなど、幅広い教育活動にも携わっています。

研究活動の成果は、数々の著作、論文に結実しています。代表的な著書には、『語り物序説：「平家」語りの発生と表現』、『太平記〈よみ〉の可能性：歴史という物語』、『平家物語〈語り〉のテクスト』、『〈声〉の国民国家・日本』などがあり、これらは日本の文学研究に大きな影響を与えました。『太平記〈よみ〉の可能性』ではサントリー学芸賞を、『〈声〉の国民国家・日本』ではやまなし文学賞を受賞するなど、その業績は高く評価されています。

兵藤氏の著作は、学術的な厳密さと同時に、読みやすさにも配慮されています。複雑な歴史的背景や文学理論を、平易な言葉で分かりやすく解説することで、専門家だけでなく、一般の読者にも広く理解できるよう工夫されています。さらに、多様なメディアを活用し、研究成果を社会に還元することに積極的であり、講演会やシンポジウムへの参加も積極的に行っています。

兵藤裕己氏の研究は、単なる学問的な探求にとどまらず、現代社会における「声」の重要性を再認識させてくれます。多様なメディアが溢れる現代において、言葉の力、表現の力がいかに重要であるかを改めて考えさせられる、重要な示唆に富む研究と言えるでしょう。

主な著書

『語り物序説： 「平家」語りの発生と表現』（有精堂）
『王権と物語』（青弓社）
『太平記〈よみ〉の可能性：歴史という物語』（講談社）
『平家物語〈語り〉のテクスト』（筑摩書房）
『〈声〉の国民国家・日本』（NHKブックス、のち講談社学術文庫）
『平家物語の歴史と芸能』（吉川弘文館）
『物語・オーラリティ・共同体：新語り物序説』（ひつじ書房）
『演じられた近代 〈国民〉の身体とパフォーマンス』（岩波書店）
『琵琶法師〈異界〉を語る人びと』（岩波書店）
『後醍醐天皇』（岩波書店）
『物語の近代』（岩波書店）

主な受賞歴

サントリー学芸賞（『太平記〈よみ〉の可能性』）
* 山梨文学賞研究評論部門（『〈声〉の国民国家・日本』）

兵藤氏の今後の研究活動にも期待が高まります。

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