典礼劇

典礼劇は、中世の10世紀から14世紀にかけて、主にフランスでカトリック教会の典礼の中で行われた宗教的な音楽劇です。

典礼劇の起源と発展

典礼劇は、ミサや聖務日課、特に朝課や晩課において、10世紀頃から既存の聖歌から派生したトロープスを拡大していく中で自然発生的に生まれたと考えられています。当初はラテン語が用いられ、修道院の仲間内でのみ上演される内輪の劇であったようです。中でも、復活祭において、空になったキリストの墓を訪れたマリアに天使が語りかける場面を描いた『だれを探しているのか』(Quem quaeritis) は非常に有名で、フランスやイギリス各地の修道院や教会で写本が作成されました。

時代が進むにつれて、典礼劇は旧約聖書や新約聖書の様々な場面を題材とするようになり、多様な作品が作られました。サン・ブノワ・シュル・ロワールのフルーリー修道院には、12世紀の戯曲集が残されており、当時の典礼劇の様子を知る上で貴重な資料となっています。また、これらの戯曲には部分的にフランス語が用いられていることから、文字を読めない人々にも聖書の内容を伝えようとしたのではないかと考えられています。

典礼劇の世俗化

12世紀以降、中世都市が発展するにつれて、典礼劇の上演場所は教会内部から教会の前庭、さらには街の広場へと移り変わっていきました。役者も聖職者から一般市民へと代わり、典礼劇は典礼から離れて、近隣の村々からの見物客も集める神秘劇として、年中行事の一つとなっていきました。14世紀から16世紀にかけては、規模も拡大し、世俗的な演劇としての性格を強めていきました。

典礼劇の意義

典礼劇は、オラトリオやオペラなどの音楽劇の源流の一つとして捉えられています。今日知られている典礼劇は200以上存在し、特に12世紀末から13世紀初め頃に北フランスのボーヴェで上演された、旧約聖書の預言者を題材にした「ダニエル劇」は、中世音楽として演奏される機会が多く、その美しい旋律とドラマチックな展開は、現代の聴衆をも魅了します。

関連項目

ダニエル劇
道徳劇
* 演劇の歴史

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