内側翼突筋

内側翼突筋（ないそくよくとつきん、英語名: medial pterygoid muscle）は、ヒトを含む多くの脊椎動物が持つ骨格筋であり、特に食物を噛み砕く際に中心的な役割を果たす咀嚼筋群に含まれる重要な筋肉です。この筋肉は、自身の意思で動かすことができる随意筋として分類されます。

解剖学的に見ると、内側翼突筋は頭蓋骨と下顎骨の間を結びつけています。筋肉の起始部、すなわち始まりの部分は、頭蓋骨の一部である蝶形骨の翼状突起と呼ばれる突起物の後面にある窪み、具体的には翼突窩の外側板と呼ばれる領域に位置しています。そこから筋肉の線維は下方へと伸び、停止部、すなわち付着して下顎骨を動かす側は、下顎骨の内側面にある翼突筋粗面と呼ばれる粗い面に付着しています。

内側翼突筋の機能は、神経による正確な制御を受けています。この筋肉を動かす神経は、内側翼突筋神経と呼ばれます。この神経は、顔面の感覚や咀嚼に関わる多くの筋肉の運動を司る非常に重要な脳神経である三叉神経（第V脳神経）の、三番目の大きな枝である下顎神経から分岐しています。したがって、三叉神経、特にその下顎神経は、内側翼突筋が正常に機能するために不可欠な役割を担っています。

内側翼突筋の最も主要な働きは、筋肉が収縮することによって下顎骨を上方向へと力強く引き上げることです。この上方への動きは、上顎の歯と下顎の歯をしっかりと咬み合わせる、いわゆる「咬合（こうごう）」という動作を可能にします。食物を噛み切ったり、砕いたりする一連の咀嚼運動において、内側翼突筋は下顎を閉じるための強力な主動力の一つとして機能しています。

臨床的には、この筋肉の状態を評価するために触診が行われることがあります。特に、歯科医師や専門家が、患者さんの口の中に指を入れて、内側翼突筋の前側の縁の部分を直接触れることで、筋肉の緊張具合や、押した際の痛み（圧痛）の有無などを確認することが可能です。この触診は、顎関節症など、咀嚼筋に関連する様々な問題を診断または評価する上で有用な方法の一つです。

内側翼突筋は、人間の複雑な顎顔面領域の構造と機能を理解する上で、解剖学、特に口腔解剖学において詳細に研究される対象です。また、全身の筋肉を一覧にしたリストの中にも数えられ、食物を処理するという生理的な機能である咀嚼のメカニズムを理解する上でも欠かせない要素となっています。その構造と機能に関する知識は、顎顔面領域の医療や研究において基礎となります。

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