内田啓一

内田啓一：日本美術史における版画研究の先駆者

内田啓一（うちだ けいいち、1960年11月1日 - 2017年2月8日）は、日本美術史家であり、特に中世日本絵画史および日本版画史を専門としていました。早稲田大学文学学術院教授を務め、後進の育成にも尽力しました。

生涯

内田啓一は、神奈川県横浜市鶴見区に生まれ、神奈川県立横浜翠嵐高等学校を経て、1983年に早稲田大学第二文学部を卒業しました。その後、早稲田大学大学院文学研究科博士課程に進み、1989年10月に満期退学。同年、町田市立国際版画美術館の学芸員となりました。学芸員として版画に携わった経験が、その後の研究に大きな影響を与えたと考えられます。

2000年、昭和女子大学専任講師に就任。2004年には助教授、2005年には教授へと昇進しました。この間、2003年6月には博士論文「中世律宗諸流派における造像とその特徴―西大寺流を中心に―」で博士（文学）の学位を取得しています。この論文は、中世仏教美術における造像様式を詳細に分析したもので、内田の緻密な研究姿勢がうかがえます。

2011年、早稲田大学文学学術院准教授として母校に復帰し、2013年には教授に就任しました。早稲田大学では、日本美術史に関する講義を担当し、多くの学生を指導しました。

2017年2月8日、癌のため逝去。56歳という若さでした。

研究内容

内田啓一の研究は、日本美術史の中でも、特に中世の絵画と版画に焦点を当てていました。仏教美術、特に密教美術に関する造詣が深く、図像学的な分析を通じて、作品の思想的背景や社会的意味を解明しようと試みました。また、版画史研究においては、江戸時代の出版文化にも関心を寄せ、版画の流通や受容の様相を明らかにしようとしました。

主要な編著書

『文観房弘真と美術』法藏館　2006年
『江戸の出版事情』青幻舎 2007年
『密教の美術』東京美術 2008年
『浄土の美術』東京美術　2009年
『後醍醐天皇と密教』法藏館　2010年
『日本仏教版画史論考』法藏館　2011年
『かわいい禅画』三才ブックス 2016年
『美しき日本の仏教版画』東京美術 2018年
* 『仏教美術史展望』法藏館　2021年

これらの著作は、内田の研究成果を広く社会に伝えるとともに、日本美術史研究の発展に大きく貢献しています。特に、『日本仏教版画史論考』は、これまで必ずしも十分な光が当てられてこなかった仏教版画史を体系的に論じた画期的な研究として高く評価されています。また、『江戸の出版事情』は、版画研究の視点から江戸時代の出版文化を捉え直したもので、一般読者にもわかりやすい内容となっています。


内田啓一は、その短い生涯の中で、日本美術史、特に版画史研究において多大な貢献をしました。彼の研究は、今後の日本美術史研究に大きな影響を与え続けるでしょう。

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