内田渡船

内田渡船

内田渡船（うちだとせん）は、かつて現在の愛知県犬山市と岐阜県各務原市の間を流れる木曽川において、両岸を結んでいた歴史的な渡し船です。その運航地は、現在の犬山橋が架かる地点よりもやや下流に位置していました。この渡し船は、単に「内田の渡し」と呼ばれることもあり、さらに古い時代には「鵜沼の渡し」、あるいは歌枕としても知られる「宇留間の渡り」といった様々な名称で呼ばれていました。

この渡しは、古くから木曽川流域における交通の要衝としての役割を果たしてきました。平安時代には、三十六歌仙の一人である藤原仲文が「ゆきかよひ定めがたさは旅人の心うるまのわたりなりけり」という歌を詠んでおり、当時の人々にとってこの渡し場が旅情を誘う場所であったことを示唆しています。また、鎌倉時代には歴史的な出来事の舞台ともなり、承久3年（1221年）に起きた承久の乱においては、朝廷軍の一部がこの内田渡船を利用して木曽川を渡ったと伝えられています。

江戸時代に入ると、内田渡船は尾張藩が整備した稲置街道の一部として組み込まれました。中山道の脇往還であった稲置街道は、犬山宿と鵜沼宿を結んでおり、その間に位置する内田渡船は、両宿場間の重要な連絡手段として機能しました。そのため、尾張藩の直営として管理・運営が行われ、藩の支配下でその重要性が高まりました。

明治時代を迎え、1871年（明治4年）に廃藩置県が実施されると、尾張藩が消滅したことにより、その直営であった内田渡船は一時的に廃止されることとなりました。しかし、地域住民や渡船関係者からの要望が強かったこと、あるいは交通手段としての必要性が高かったことから、わずか2年後の1873年（明治6年）には、かつて渡船に携わっていた人々による運営が認められ、内田渡船は復活を遂げました。さらに、1879年（明治12年）には、より安定した運営体制を確立するため、愛知県側の丹羽郡稲置村と岐阜県側の各務郡鵜沼村が協力して、渡船の運航を担うための会社組織である渡船社が設立されました。

近代に入ると、渡船技術の進歩も見られました。明治末期にあたる1907年（明治40年）頃からは、岡田式渡船装置と呼ばれる仕組みが導入され、より効率的で安全な運航が可能になったと考えられています。この装置は、ワイヤーロープなどを利用して船を牽引する方式であり、流れの速い木曽川での渡船に適していました。

しかし、長年にわたり木曽川を渡る重要な交通手段であった内田渡船も、時代の変化と共にその役割を終えることとなります。1925年（大正14年）、現在の犬山橋である木曽川橋が完成したことにより、陸上交通が整備され、渡船の必要性が低下しました。これにより、内田渡船はその長い歴史に幕を下ろし、廃止されました。

内田渡船の存在を今に伝えるものとして、かつての渡船場跡にはいくつかの遺構が残されています。愛知県側の渡船場跡には、文化12年（1815年）に建立された歴史ある常夜灯が、岐阜県側の渡船場跡には、明治26年（1892年）に建立された比較的新しい常夜灯がそれぞれ現存しており、これらは木曽川における渡船の歴史を物語る貴重な手がかりとなっています。内田渡船は廃止されましたが、これらの常夜灯は、かつてこの地が人々の往来で賑わっていたことを静かに伝えています。

もう一度検索