内部細胞塊

内部細胞塊 (Inner Cell Mass: ICM)

哺乳類の非常に早い発生段階で、胚盤胞と呼ばれる構造体の内部に現れる細胞の集合体を、内部細胞塊（ないぶさいぼうかい）と呼びます。これは、後の胚体そのものや、胚の発生に必要な特定の胚体外組織を作り出す上で極めて重要な役割を担う細胞群です。

形成の過程

受精卵が細胞分裂を繰り返し、多数の細胞が集まった桑実胚の段階に至ると、細胞の間で明確な分化が起こり始めます。このとき、中央部に位置する細胞たちは、後の内部細胞塊へとその運命を定めます。一方、その外側を取り囲むように位置する細胞の大部分は栄養芽細胞として分化し、これらが栄養外胚葉という組織を形成します。この栄養外胚葉は、発生が進んで着床が成立した後に、胚が子宮内膜に付着するのを助け、最終的には胎盤の一部を形成するという重要な役割を担います。

その後の発生

胚盤胞が子宮に着床すると、内部細胞塊はさらに分化を進め、二つの異なる細胞層に明確に分かれます。一つは胚盤葉上層（epiblast）と呼ばれ、もう一つは原始内胚葉（primitive endoderm）と呼ばれます。これらの二つの細胞層が重なり合った構造は二層胚盤（bilaminar germ disc）と称され、これが将来の胚全体の設計図となる基盤を形成します。

この二層胚盤のうち、胚盤葉上層からは、私たち自身の体を構成する様々な器官や組織の元となる細胞を含む「胚体」そのものと、発生中の胚を保護する役割を持つ「羊膜」が作られます。つまり、私たちの体のすべての細胞は、元をたどれば胚盤葉上層に由来しているのです。

他方の原始内胚葉は、胚体の外部に位置する細胞層であり、直接胚体を構成する細胞にはなりません。この層からは、発生に必要な栄養供給や老廃物の排出など、胚の発生を外部から支える役割を持つ胚体外組織である卵黄嚢（yolk sac）が形成されます。鳥類や爬虫類の卵黄嚢が文字通り栄養を貯蔵する役割が主であるのに対し、哺乳類では代謝や初期の血液細胞形成など、より多様な機能に関わります。

内部細胞塊とES細胞

内部細胞塊に含まれる細胞は、体中のあらゆる種類の細胞（神経細胞、筋肉細胞、血液細胞など）に分化する潜在能力（多能性）を極めて高く持っていることが特徴です。この多能性に着目し、胚盤胞から内部細胞塊の細胞を注意深く単離し、適切な培養環境（例えば、増殖因子を含む培地や、増殖を助けるフィーダー細胞と呼ばれる支持細胞の上）で維持・増殖させることで、胚性幹細胞（ES細胞）を樹立することができます。ES細胞は、特定のシグナルを与えることで体中の様々な細胞へと分化させることが可能であり、発生メカニズムの研究や再生医療への応用を目指した研究で非常に重要なツールとなっています。

内部細胞塊は、このように初期の胚発生において、将来の体の形成と生命維持に必要な胚体外組織の両方を生み出す源として、発生学的に極めて重要な細胞集団であると言えます。

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