冨田藤男

冨田藤男：南関東競馬を彩った調教師から馬主へ

1935年生まれの冨田藤男氏は、南関東公営競馬の浦和競馬場を拠点に活躍した元調教師であり、現在は地方競馬の馬主として知られています。その経歴は、競馬界の多様な側面を映し出す興味深いものです。

厩務員から調教師へ

冨田氏の競馬界との関わりは、父親が厩務員として働いていた大井競馬場から始まりました。父の後を継ぎ、自身も厩務員として大井競馬場、船橋競馬場、高崎競馬場、足利競馬場、金沢競馬場と転々とし、最終的に浦和競馬場の長谷川甲子雄厩舎に落ち着いたのです。そこで調教師補佐を務めた後、1973年に調教師免許を取得し、自身の厩舎を開業しました。

開業当初は苦労もあったでしょうが、同年7月8日、大井競馬場での勝利を収め、調教師としての道を歩み始めます。その後長きにわたり、浦和競馬場を拠点に数多くの馬を管理。その厩舎は、南関東の競馬場で最も出走回数の多い厩舎として知られるようになりました。

独特の厩舎経営と多出走

冨田厩舎の最大の特徴は、その圧倒的な出走回数でした。毎日のように出走馬がいたため、競馬ファンからは「浦和の名物はキュウリと冨田」と言われるほどでした。この多出走の背景には、冨田氏の明確な経営戦略がありました。賞金レベルの低い地方競馬では一般的な戦略ですが、南関東のように賞金レベルが高い地区では異例のことでした。それは、頑健な馬を多く抱え、出走回数を増やすことで、出走手当を確保し、厩舎経営の安定を図るというものです。

この戦略の結果、冨田厩舎の勝率や連対率は決して高くはありませんでしたが、多くの馬にレース経験を積ませることに成功しました。また、他の厩舎から放出された、脚元は丈夫だが成績が伸び悩んでいる馬を数多く引き受けていました。そのため、所属馬の多くは転厩馬でした。

多くの出走頭数をこなすため、特定の騎手が騎乗することが多くなりました。かつては桑島孝春、久保秀男、小林真治、早見多加志といったベテラン騎手たちが、近年は金子正彦、岡田大、秋元耕成、折笠豊和といった騎手たちが中心となっていました。時折、的場文男や町田直希といった騎手が騎乗した際には、好成績を残すこともありました。

調教師勇退と馬主への転身

2011年、次男の冨田敏男氏が調教師試験に合格したことを機に、冨田藤男氏は調教師を勇退し、馬主へと転身しました。長年の経験と知識を活かし、現在も馬主として、競馬界に貢献し続けています。

輝かしい功績

調教師としての通算成績は、460勝、2着631回、3着833回、そして驚異的な15937回の出走という記録を残しました。勝率は2.9％、連対率は6.8％と、多出走戦略が数字に如実に表れています。

管理馬の中には、161連敗という記録で知られるハクホークインや、房の国オープン優勝馬のマルカカイゼル、さらには姫山菊花賞で3着に入ったアースクエイク、そして勝島賞を制したヒロホースなど、多くの活躍馬がいました。

馬主となってからも、シェナキング（菊水賞優勝）など、優秀な馬を所有し続けています。

まとめ

冨田藤男氏の長く輝かしいキャリアは、地方競馬、特に南関東競馬の歴史に深く刻まれています。多出走という独自の戦略を貫き、数々の名馬を育て上げた手腕は、後世に語り継がれるべきでしょう。調教師としての功績だけでなく、現在も馬主として競馬界に貢献している彼の姿は、多くの関係者に敬意と感動を与え続けているのです。

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