処女航海 (曲)

処女航海（Maiden Voyage）

「処女航海」（原題：Maiden Voyage）は、1965年にアメリカ合衆国のジャズ・ピアニスト、ハービー・ハンコックによって発表された楽曲です。この曲は彼のキャリアを代表する一曲として広く認識されており、uDscoverMusicのスタッフが2017年に選出した「ジャズ100年の歴史を彩る100曲」の一つにも数えられるなど、ジャズ史におけるその重要性は揺るぎないものとなっています。

楽曲の背景と特徴

この楽曲の創作には興味深い背景があります。当初、「処女航海」は男性用オーデコロンのコマーシャル音楽として作曲されたフレーズが原型となっています。タイトルは、作曲者のハービー・ハンコックの妹が、そのメロディを聴いた際に「voyage」（航海）という言葉を連想したことに由来しています。

音楽的な特徴として特筆すべきは、そのコードワークです。ハンコックは、マイルス・デイヴィスのアルバム『E.S.P.』（1965年1月録音）のセッションに参加し、収録曲「81」においてsus4コードを多用する経験をしました。この経験が「処女航海」の作曲に影響を与え、楽曲全体の伴奏は、全体にわたりsus4コードを基調とする独特の響きを持っています。

オリジナル録音

「処女航海」は、同名のアルバム『処女航海』に収録するために録音されました。最初の録音は1965年3月11日に行われましたが、残念ながらこの時のテープは現存していません。現在聴くことができるバージョンは、同年3月17日にアルバムに収録される他の楽曲と共に録音されたものです。

その後の演奏機会

この名曲は、オリジナル録音以降も様々な形で演奏され、公式に発表されています。例えば、1975年の日本公演を収録したライブアルバム『Flood』の冒頭を飾る楽曲として収められています。また、1976年6月29日のニューヨーク公演におけるライブ音源は、アルバム『ニューポートの追想』で聴くことができます。

さらに、1978年にはチック・コリアとのピアノ・デュオ・ツアーでこの曲が演奏され、そのライブ音源はコロムビア・レコードからリリースされたライブ・アルバム『イン・コンサート』（1978年11月発売）、そしてポリドール・レコードからリリースされたライブ・アルバム『イン・コンサート (デュオ・ライヴ)』（1979年2月発売）にそれぞれ収録されました。1988年に発表されたハンコック自身のアルバム『パーフェクト・マシーン』には、新曲「Pバップ」とのメドレー形式でリメイクされたバージョンが収録されています。

多彩なカバー

「処女航海」はその美しい旋律と独特のハーモニーから、数多くのアーティストによってカバーされています。ジャズの分野にとどまらず、フュージョンや他のジャンルのミュージシャンにも影響を与えています。

代表的なカバーとしては以下が挙げられます。

ボビー・ハッチャーソン - アルバム『ハプニングス』（1966年録音）。作者ハンコックもサイドマンとして参加。
ラムゼイ・ルイス - アルバム『処女航海』（1968年）。
ブライアン・オーガー・アンド・ザ・トリニティー - アルバム『ビフォア』（1970年）。
グラント・グリーン - ライヴ・アルバム『アライヴ!』（1970年録音）の再発CDにボーナス・トラックとして収録。
アート・ファーマー - アルバム『処女航海』（1983年）。
GRPオールスター・ビッグ・バンド - アルバム『GRPオールスター・ビッグ・バンド・プレイズ・ジャズ・スタンダーズ』（1992年）。
国府弘子 - アルバム『ピアノ・タペストリー』（2001年）。
TOTO - カヴァー・アルバム『スルー・ザ・ルッキング・グラス』（2002年）。同じくハンコックの楽曲「バタフライ」とのメドレー形式。
ロバート・グラスパー - アルバム『Mood』（2004年）。
オースティン・ペラルタ - アルバム『処女航海』（2006年）。

これらのカバーは、「処女航海」が時代を超えて愛され、多様な解釈を受け入れる普遍的な魅力を持っていることを示しています。

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